第4章 新しい朝、そして懐古の夜更け
瞼の上が白くなっていくのを感じてシャンクスはそっと目を開けた。ああ、いつの間にか寝ちまったのか。体を起こそうと力を入れるも、背中に重さを感じて首だけ後ろに回す。バギーが大きな口を開けながらシャンクスの背を枕にして眠っていた。
「おいバギー……」
「ああ……ん……」
「邪魔だ」
「痛ェ!!」
体を横に転がすと、そのままバギーの頭が床に落ちた。後頭部をおさえてのたうち回るのを尻目に凝り固まった身体をほぐす。医務室の床で何も敷かずに寝た体は節々が悲鳴を上げていた。
「おめェな!!」
「人を枕にしておいて怒るなよ」
バギーの抗議をあしらってベッドの中を見ると、昨晩とは打って変わって穏やかな顔をで眠るフレイアがいた。ひとまず体調が安定したことにホッと胸を撫で下ろす。
「ファイさんの言ってた通りだな」
「……ああ」
「じゃあやっぱり」
「言うな。ファイさんに言われただろ」
「分かってるよ! こいつが起きたら言わねェから今くらい弱気になってもいいだろうが!!」
「お前絶対引きずるだろ」
「バカにすんな! それくらい弁えてるっつーの!!」
「おお、昨日の言いつけを守ってるようで何よりだ。クソうるせェな」
ファイが小さく欠伸を零しながら入ってくる。チラリとフレイアを一瞥すると、シャンクスとバギーの後ろ襟を掴んで扉の方に押し出す。
「ほら、いつも通りにだろ。もう皆メシ食ったぞ」
「ええ!?」
「起こしてくれよ!」
「来たじゃねェか」
「行くぞシャンクス。メシ抜きになる! 昨日の夜から何も食べてねェんだぞ」
「あ、おいちょっと待てよ!!」
素早いスタートをきめたバギーの後ろを慌ててシャンクスも後を追いかける。その二つの背中を眩しそうに目を細めて見送ると、ドサリと音をたててベッドの端に腰を落とした。
「……」
黙ってフレイアの頬をそっと撫でる。人肌らしい温もりを感じて頬を緩めると、ペンダントのチェーンから指輪を一つ抜き取った。透かし細工の施された細身の指輪を軽く握り、拳を額に付けると祈るように目を閉じる。
「どうか海の加護があらんことを」
ぼそりとそう呟いて、ポケットから取り出したチェーンに指輪を通すと、フレイアの首にかける。
「……良かったのか?」
いつの間にか背後に立っていたレイリーにファイがハッと笑いを返す。