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鏡面【ONE PIECE】

第3章 それぞれの夜


「お前に……餞別代りにいいことを教えてやる」
「え?」
 座っているフレイアを見下ろす男から目を逸らせなくなる。その瞳に映っていたのは確かな憐れみだったから。
「お前がどんなに海を愛しても、もうお前は海の寵愛をうけることはない」
「え?」
「悪魔の力は海の民の力と相反するもの。もうお前は海の民の力を使えはしないだろう。天秤が偏り過ぎている」
「……」
 驚きと絶望感に染まった目をみて、男は大きく息を吐いた。これと全く同じ顔をしばらく前に見た。その女は、どんなに愛しても応えて貰えないことに耐えられるほど心が強くなかった。
「……失ったものに目を向けるな。それでも、どうしても寂しかったら海に触れていろ。気休めにしかならんがな」
「……いつか戻ることはある?」
「さァな。お前はマイアじゃない。全てを許容してみせるといったあの女と違う道を進むなら、あるいは違うゴールに行きつけるかもしれない。しかし、断言できるほどサンプルがない」
「……」
「一つ言えるとしたら……」
 男がフレイアと目線を合わせるようにしゃがみこむと、優しくその体を腕の中に納めて額同士を合わせる。その途端、不安が渦巻いていた心の中がゆっくり落ち着いていくのを感じて、フレイアは小さな手を男の背に回した。
「お前が海の民である事実は変わらない。その体に流れている血は、その体を構成している細胞は、お前が海の民であることを忘れはしない」
「……うん」
「強く生きろよ。今度会う時は大往生で来い」
「うん、ありが……」
 ふっと腕の中にあった感触が無くなって、男は閉じていた瞼を持ち上げる。余韻も何も残さず跡形もなく消えた少女を想って、天井を見つめる。
「……あいつのいる船の上は晴天か」
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