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鏡面【ONE PIECE】

第3章 それぞれの夜


 光が遠ざかっていく。
 音は消えていく。
 指の先から体温が抜けていく。
 痛みだけがまだ自分は生きているのだと知らせてくれる。

「フレイア」
 遠くから誰かに呼ばれた気がした。でも、接着剤で張り付けられたように瞼が動かない。
「フレイア」
 呼ぶ声が近づいてくる。それにつれて、肌を何かが滑っているような感覚を覚えた。
(知ってる、この感覚……海の中にいるみたい)
 全身を冷たい水に包まれているようだと、ぼんやりした意識でフレイアは認識した。
「フレイア」
 声がすぐそばで聞こえた。優しく慈愛に満ちた声の主が知りたくて、必死に目元に力を入れる。すると、柔らかな手が皺の酔った眉間を撫でた。
「そんなに力を入れなくても目は開く。焦るなガキ」
 先程とは違う声を聴いた途端、錠が外れたようにフレイアの目が勢いよく開いた。視界にフードを被った男が飛び込んでくる。
「やっと起きたか。堕ちてきてもう半日経ったぞ」
「……」
(いや、貴方は誰ですか)
 あまりにも自然に話しかけてくる男に聞いていいのか悩ましい。石で出来た固い台の上に寝かされた姿勢のまま半眼で男を見続けると、黙って頭に拳骨が落とされた。
「いたッ!」
「なんだ喋れるじゃないか」
「……」
「黙るなよ」
「……ここはどこ?」
「墓場」
 にべもなくそう言い切った男は、フレイアの手を掴んで台から降ろす。石作りの建物の床に素足をつけると、冷たさを確かに感じてホッとする。
「……身体に異変は?」
「え? と、特に?」
「ああ、ここだと何も変わらないのか。そういやそうだった」
 よく分からないことをブツブツ呟く男を前に、しかしフレイアの頭を占めているのはずっと名前を呼んでいた女性のことだった。何故か懐かしさを感じたその声の主が目の前の男でないことだけは確実だ。
「ねェ貴方は誰? さっきの女性はどこですか?」
「質問の多いガキだな。お前の母親はもう少し落ち着いてたぞ。まァガキに冷静さを求めるおれがおかしいのかもしれんが」
「え? お母さん?」
 予想外の言葉に目を細める。全く記憶に存在しない母親と自分の関係を知っている人間は限られているはずだ。海軍の関係者か、ロジャー海賊団の人間か。
「貴方、何者?」
 大きく後ろにジャンプして距離を取ると、警戒心を剥き出しにして男を見る。
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