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鏡面【ONE PIECE】

第3章 それぞれの夜


 ファイが胸元に下がっている指輪を無意識に握りしめる。その様子をみて、シャンクスは彼が夜中にそうやって海を眺めていたことを思い出していた。不寝番の順番が被ると毎晩見られるその光景は、きっとこの船のクルーならば一度は見たことのあるもの。絶対に踏み込んではいけない時間。
「後はお前らも聞いた事あるだろう? フレイアを生んですぐあいつは産後の身体が安定しなくて死んだ。赤ん坊の顔を見れただけ良かったって考えるべきなのかもな」
「……」
「長々と話したが、フレイアに関係あることは一つだ」
「……起きたら海の民の力を失っているってこと」
 静かに呟いたシャンクスにファイが静かに頷く。しかし、そこで慌てたようにバギーが口を開いた。
「で、でもフレイアも母親と同じになるって保障は」
「無い……無いが……可能性は高いと見た方が良い」
「……」
 黙って俯くバギーを見てファイも視線を落とす。自分一人で娘を支えてやれないからと、まだ子供の二人に頼った自分が情けない。それでも、マイアの二の舞にだけはしたくない。
(流石に自殺未遂までしたことは話せねェよな……)
「なァ……ファイさん」
「なんだ?」
「……おれ達に出来ることは何なんだろう」
 真っ直ぐ前を見据えて言うシャンクスに、ファイは僅かに微笑む。
「お前は一人じゃないって、手を引いてやってほしい。ただそれだけだ」
 
 ずっと静かなの。まるで世界に独りぼっちになったみたい。生まれてから欠かさず傍にいたのに。

 頭の中で愛した人間の涙に濡れた声が聞こえる。口下手で喋るのが苦手だったことを、あれほど後悔したことはなかった。ただ毎日手を握って存在を伝えることしか出来なかった。
「お前等は今まで通り騒がしくあいつを取り囲むだけでいいんだよ。下を向くな。同情も、今回のことに負い目も見せるな。そんなもんフレイアを傷つけるだけだ」
 ファイの言葉にバギーも恐る恐る顔を上げる。二人の少年たちの顔を見て軽く頷くと、両手で二人の頭を乱暴に撫でた。
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