第3章 それぞれの夜
船の医務室では二つの影が静かにベッド脇で並んでいた。いつもの彼等を知っているものからすれば、異様なほどの静けさに扉付近でクルー達が立ち往生している。
(この重い空気をどうやって壊せばいいんだ?)
(フレイアの呼吸が少し落ち着いてきたか……?)
しかし当の本人たちは全く別のことを考えていた。数分おきに隣に座るシャンクスの顔を見るバギーと、そんな彼は目に入らないとばかりにただベッドに眠るフレイアを見つめるシャンクス。
「なァ……」
「なんだよ」
小一時間後、耐えきれなくなったバギーが沈黙を破るとシャンクスもようやく視線をフレイアから離した。
「おれ達には何も出来ねェんだし、一回寝ようぜ」
「……さっきはずっといるって言った奴の台詞か?」
「そりゃあ、おれだってこいつのことが心配だけどよ……何もできないおれ達よりクロッカスさんの方が、よっぽどこいつの苦痛を和らげられる可能性があるだろ?」
「それは……」
分かっている、と言いたげに口をへの字に曲げながらも、その先を言わずにフレイアに向き直るシャンクスを見てバギーが溜息を吐いた。
「おい」
「うわ、ファイさん気配消して近づかないでくれよ!?」
「うるせェ……夜中だぞ。もっとも殆ど全員起きてるようだが」
背後の扉をファイがチラリとみた瞬間、蜘蛛の子を散らすようにクルーが逃げていった。その様子に乾いた笑いを浮かべるバギーとシャンクスの頭にファイの手がのる。
「少し話がある」
「え、おれ達2人に?」
「そうだ。ここはクロッカスに任せて付いて来い」
「ここじゃダメ?」
「……お前がどんなに気を張っても、明日まで目を覚まさねェよ」
「そんなの」
「わかる」
言葉を遮るようにきっぱり言い切るファイを驚いて2人が見上げる。しかし、ファイの視線は言葉の強さとは裏腹に、シャンクスとバギーでもベッドの上の娘でもない、どこか遠くを見ているような弱さがあった。
「なんで言い切れるんですか」
「……こいつの母親が悪魔の実を食べた時も、丸一日うなされて寝込んでたからだ。こいつの方が母親より年齢的に体力がない。母親より早く目覚めることもないだろう」
「フレイアの母親……」