第3章 それぞれの夜
「マイアが死んだのも、フレイアがこうなってるのもお前ひとりの責任じゃねェと言ってるんだ。自惚れんな」
「誰に何言われたっておれはおれが許せないって話だ。大丈夫、明日になったら元通りになってる」
「……お前は昔から変わらんな」
「おれはおれだからな。ただ……」
ファイが写真を一目見て微笑むと、真っ直ぐ月を見上げる。
「守るものが出来たせいで随分と弱くなった気がする」
「それは弱さか?」
「自分の命と愛刀だけを背負ってた頃とは違うさ」
「確かに嫁をもらってから随分丸くなったな」
昔のファイを思い出してロジャーが笑いながら言う。それにレイリーも同意を返すと、ファイは「うるせェ」と言いながらも特に否定せず写真を懐に仕舞った。
「……あいつの食べた実の特定は?」
「ああ、出来た。傍にいた姉妹の片割れに見た目を確認したからまず間違いないだろう」
「あいつ等まだ船にいやがるのか?」
「ああ、フレイアに直接謝罪と感謝を言いたいと聞かなくてな。ミランダが面倒を見てる」
「……」
「恨んでるか?」
「……恨んでないと言えば嘘になる。でも、フレイアの選択を否定する気もない。あいつは母親に似て優しすぎるからな」
やれやれとでも言いたげなファイの様子にレイリーもマイアのことを思い出していた。彼女が悪魔の実を食べることになったのも、上陸した街で奴隷だった少女を庇ってのことだった。
(まったく……余計な所ばかり両親に似る子だ)
「……フレイアは乗り越えられると思うか? 目を覚ましたらきっとアイツの世界は一変してる。その残酷な変化に、耐えられると思うか?」
「大丈夫さ。あいつには気のいい兄貴が二人もついてるからな。意気消沈の親父なんかお呼びじゃねェよ」
そう言ってファイの丸くなった背中をロジャーが強く叩いた。あまりに強い力で咳き込むファイが抗議の声を上げるが、全く意に介していない様子で豪快に笑う。
「それより気のいい兄貴共に先に話して来いよ。先人の出来ることなんかそれくらいだぞ」
「……ああ、そうだな」
小さく溜息をついて、ファイが立ち上がる。柔らかな風に黒髪を遊ばせながら強く胸元のチェーンに通された指輪を握り締める。
「娘一人守れないのかって、怒ってるかな」
「まさか」
「むしろ今ウダウダ悩んでることに怒ってるだろうな」
「……そうか。ありがとな、二人共」