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鏡面【ONE PIECE】

第3章 それぞれの夜


 驚くほど大きな満月が煌々と輝く夜。ファイはメインマストの上に座ってぼんやりと二枚の写真を眺めていた。僅かによれて、端のほうが丸くなった写真は、撮られてからの年月と普段から持ち歩いていることを感じさせる。煙草を銜えた口の端から白煙を吐き出して、ただ写真を見つめる静かな時間。
「随分とシケた面してるな」
「ロジャー、おれが今何してるかわかるか?」
「死んだ自分の女に思いを馳せてるんだろ」
「わかってるなら邪魔すんな。失せろ」
 曲がりなりにも船長であるロジャーにそう吐き捨てて、ファイが短くなった煙草を適当なところに押し付けて消す。
「おい、船を汚すな」
「レイリーお前もか」
 ロジャーの隣でひょっこり顔を出したレイリーに眉間の皺を深める。しかし、そんな表情は目に入らないとばかりにファイを挟むように船長と副船長もマストの上に座った。小さく舌打ちを漏らしながらも、その場から動くことも二人を追い返そうとすることもせず、再びその視線は写真に戻っていく。
 1枚は結婚式の写真だった。今より幾分か若いファイとその隣で微笑む一人の女性。そして、その主役二人を取り囲むようにロジャー海賊団でも古株の面々が立っている。
 もう1枚は家族写真だった。青白い顔で、ベッドに腰かけながらも、しかし確かに幸福に満ちた笑みを浮かべる女性と腕の中の赤ん坊、女性を支えながらぎこちなく笑うファイ。
「どんなに眺めてもマイアは戻ってこねェぞ」
「そんなことわかってるさ」
 赤ん坊を抱く女性……自分の妻であったマイアの頬を撫でる指先も写真に向けられる視線も優しさが滲んでいる。しかし、その瞳が宿しているのが優しさ以上に大きな悲しみであることをロジャーもレイリーも重々承知していた。
「フレイアは……」
「シャンクスとバギーがついてる。クロッカスがいるから寝ろと言っても聞きやしない」
「あいつ等なりに責任を感じてるんだろ。一緒に行ってやってれば今頃は楽しく、いつも通り馬鹿やってるころだったからな」
 いつも騒がしい奴等が静かだと調子が狂って仕方ないと言って笑うレイリーの隣で、ファイも小さく笑った。
「ガキ共が責任感じることじゃねェよ」
「お前もだバカ野郎」
「おれはあいつの父親だ。マイアが死んだ時に、フレイアのことは絶対に守ると誓った」
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