第1章 見習いトリオ
腕を組んで考えること僅か3秒。フレイアは腰に刺してあった練習用の木刀を抜き取ると、目を閉じて呼吸を整える。
(うん、気配は感じる。3人の場所は視覚の情報と全く同じ。足のルートだけ決めて剣はルート上に流すだけ)
修行で教えられたことを思い出しながら足を踏み出した。
「デッ」
「いっ」
「ガッ」
通った道筋で三者三様の呻き声をあげるのを聞きながらゆっくり目を開く。満足気に笑いながらフレイアが後ろを振り返ると、頭を抑える2人と顔を手で覆って蹲った1人が目に入ってきた。
「おはよう」
「フレイア! お前な!」
「何よシャン、起きない人が悪いんでしょ」
「だからって木刀でぶん殴ることあるか!! 二日酔いの頭に響くだろ!!」
いち早く復活したシャンクスが怒鳴るが、しかし自分の声に更に頭痛を誘発して床に逆戻りする。ダウンしたシャンクスの代わりだとばかりにバギーが鼻を抑えながら立ち上がった。
「なんでシャンクスとファイさんは頭なのにおれは顔面なんだよ! 嫌がらせか!!」
「バギーの顔の向きの問題ね」
「理不尽か!!」
「フレイア」
自分より幾分か身長の高いバギーに睨まれながらも一歩も引かないフレイアが、始めて緊張した様子で声の方へ振り返る。頭を抑えながら心底不機嫌そうな表情を隠そうともしない男はフレイアの方へもう片方の手を伸ばした。
フレイアが一瞬体を硬くして目を閉じるも、自らの頭を撫でる感触に恐る恐る片目を開く。相変わらず厳しい顔つきだが、纏う雰囲気は柔らかい。
「教えたことがしっかり身についてる」
「……ふふ、ありがとうお父さん」
(相変わらず娘には激甘なんだよなぁ)
(頭イテェ)
すっかり親子の空気に染まった部屋で場違いな2人は支えあいながら部屋を出て行った。残された親子であり師弟は、副船長が偶々船長を引きずりながら立ち寄るまで剣の指導を続けるのであった。