第2章 superfluous power
グッと深く地面を蹴ってサーベルを振るい、2人の男を一気に切り伏せる。最後の一人も難なく切り捨てて伝達係の男を追おうとすると、追加だとばかりに横から銃弾が飛んできた。それに歯噛みしながら、邪魔者に刃を向けようとした瞬間、ファイから注意を促す声が飛んできた。
「伏せろ!!」
シャンクスが慌てて従うな否や、ファイの姿が揺れた。その様子を見て、シャンクスは自分の反射神経のよさに心から感謝する。
【明鏡止水】
いつだったか、レイリーがこの技をそう呼んでいたことを思い出しながら、辺り一面血の池になった床で滑らないよう注意しながら男の消えた扉を開く。
「フレイア!!!」
すぐ目に飛び込んできた地下へと続く梯子へむかって大きく叫んだ。
「敵襲だ!?」
「は、はい! しかも相手はあの『剣聖』と素性の分からない赤い髪のガキで。ガキの方も俺達じゃとても」
目の前で焦った様子を見せる男達に小さく笑いながら気が抜けていくのをフレイアは感じていた。あの二人が来てくれたなら、もう安心だという思いが緊張の糸を一気に緩める。
「仕方ねェ……」
「え、わっ!!」
油断しきっていた体が無理矢理押し倒された。血走ったリーダー格の男が、フレイアの口にナイフで切り取った悪魔の実の欠片を押し込んでくる。
「ぼ、ボス!?」
「この実の能力は分からねェが、海賊たちが海軍と争ってまで入手しようとしてたのは確かだ!! こいつを上手く使って逃げるんだよ!!」
「……!」
再び頭の中で強い拒絶が鳴り響き、男の手を引きはがそうともがく。しかし、腕力では到底敵うわけがなく、首を絞められた息苦しさから反射的に酸素を吸おうとした喉を欠片が滑り落ちていく。
「あ、ああああ!!!!」
「うわ、な、なんだ!?」
急に叫び出したフレイアに思わず男が手を放して後ずさる。当の本人は心臓を押さえて呻きながら蹲りだした。
(いたい、あつい、いやだ)
ドクドクと脈が急激にはやまり、心臓が鷲掴みされているように痛む。同時に頭の中で響く海の声が急激に小さくなっていくのを感じて、独りぼっちにされるような不安感がこみ上げてきた。
「フレイア!!」
かなり近い場所からシャンクスの声が聞こえた気がした。
「シャン……助け……」
絞り出した声は誰にも聞こえないまま地面に吸い込まれた。