第2章 superfluous power
シャンクスはそう言って少女の頭に軽く手をのせる。堰を切ったように嗚咽を漏らす姿を置いて、レイリーを見つめる。レイリーは軽く頷いて声を張り上げる。
「よし、目標は決まった! 先程決めた通りに全員動け!」
「おお!!」
「……シャンクス」
「え、あ、はい……」
島の方を見つめて微動だにしないファイが先程とは打って変わって、冷え切った声をだす。それが逆に不気味でシャンクスが怯えていると、黙って手を差し出される。
「行くぞ」
「え?」
「おれはあのガキや、ガキの妹がどうなろうと知らん。守りたかったらお前が守れ。おれはフレイア以外興味ないからな」
(つまり現場の部隊に加われってことか?)
差し出された右手を見つめながら暫く思案する。しかし、その時間が勿体ないとばかりにファイの手がシャンクスの腕を掴んで、無理矢理自分の肩にシャンクスをのせた。
嫌な予感にさいなまれながら恐る恐るレイリーの方をみると、神妙な顔で親指を立てられた。その隣でロジャーも良い笑顔で手を振る。
(おれ、まだ死にたくねェんだけどな)
「現場はファイに一任する」
「ついてこれない奴は置いていくからな!」
そう呟きながら、ファイが一気に甲板から飛びおりた。
「うわあああ」
「舌噛むぞ」
突然船の側面が目の前で踊ったかと思うと、顔面がコンクリートの地面すれすれに着地する。
「こ、心の準備を待ってほしか」
「遅い」
「ごめんなさい」
今のこの人に何を言っても無駄だ、と悟りを開いた顔でシャンクスはサーベルを落とさないように握りしめた。そうこうしている間も、人混みを避けるように屋根の上や路地裏を猛スピードで走り抜けていく。屯していたガラの悪そうな男達も、そうじゃない人間も、ファイが殺気を振りまきながら走ってくる様子を見た途端に慌てて道を開けた。森に入ると、動物たちまで茂みから顔を見せない様子に同情しながらシャンクスが声を張り上げた。
「ファイさん、場所分かってんの!?」
「気配は探った。場所がある程度絞れればあいつの気配は分かる」
「……」
「そんなことより準備しろ。そろそろ着くぞ」
シャンクスが返事をしようとした瞬間、木々が途切れて古びた建物が姿を現した。建物の頂上で錆びた十字架が傾いているのを確認して、ファイがシャンクスを肩から降ろす。
「おれが大体切り捨てるからお前は地下室を探せ」
「了解!」