第15章 背中を追うこと、隣に立つこと
「!!?」
「ごめんなさい。遅くなったわ、オヤジさん」
攻撃の力強さとは反対に、小さな音をたててモビー・ディックの船首にひとつの影が降り立った。それを感じた白ひげは、戦線から目を離さないまでも微笑んだ。
「悪かねェよ。今始まったところだ」
「そう、良かったわ」
紺色の髪を風に靡かせながら現れたフレイアに周囲どよめく。彼女の影から現れた船を確認した海軍は伝令をセンゴクに向けて送った。
「【鏡面】の船です! また、周囲に待機させていた戦艦からの連絡が途絶え……」
「分かっとる! あの女……誰にも与しないからこそ野放しにされていたというのに!」
「あら、聞き捨てならないわねセンゴク」
フレイアは微笑みながら透明な刀の鋒を前に向けた。
「姉が弟を助けにくるのは当然でしょ?」
「……フレイア」
「なに、オヤジさん」
「お前、しんがりを務めろ。お前の力なら七武海も蹴散らせるだろう」
「……了解」
頷いたフレイアは、船を伝って乗り移ってきた自らのクルーを振り返る。全員戦場を見下ろしながら険しい表情を浮かべているのを見て、手近にいたリオンの肩を叩く。
「リオンとマリンは各方面のフォロー。七武海か……あわよくば大将を足止めしなさい」
「あぁ」
「了解!」
「ミレイは負傷者の治療を優先。可能であれば戦線復帰させなさい。手はいくらあっても足りないわ」
「分かった!」
全員の背中を順に叩いて前に押し出したフレイアは、1番後ろから飛び出していく。湖月で前線を蹴散らしたフレイアは、そのまま先頭を走ってエースに向かって行こうと足を踏み出した。その瞬間、横から斬撃が飛んできて足止めを喰らう。横なぎに向けられた黒刀を受け止めたフレイアは、唇の端を持ち上げながらミホークを見上げた。
「今急いでるんだけど!」
「ぬしと本気でやり合える機会はそうないのでな」
大きな黒刀を器用に使い、世界最高峰の剣術を惜しみもなく披露するミホークにフレイアも応戦する。しかし、自分の背後にきた男を感じてフレイアはミホークに向かって叫んだ。
「悪いわね! 今はアンタの相手してる暇ないのよ!」