第15章 背中を追うこと、隣に立つこと
フレイアの海の民の力は、部分的な能力しか戻ることはなかった。親の形見である指輪を握っている間だけ聞こえる声と、僅かだけ動かせる海水。それは自由自在に海を操る祖父とは比べ物にならないほど小さな力。
「……フレイア、無理しようなんて考えるなよ」
「リオン」
「マリンフォードに着いた後は戦争だ。マリンが間に合わせるって言ってるのに、無駄なことをして体力を使うな」
「……分かってるわよ。マリンの腕は信用してる」
大きく動き出した船にフレイアは足腰に力を入れて踏ん張る。帆が風を受けて膨らんでいる様子を見上げながら、そっと手元の新聞に再び視線を落とした。
(海軍だってオヤジさんと戦うことの意味を……彼を失うことの意味を分かってるはずなのに……)
ロジャーの死によって開幕した大海賊時代。それにより多くの者が海に雪崩れ込んだ。荒れに荒れた海の上で、【白ひげ】の名の下に守られた力無き者達は大勢いる。白ひげという絶対的存在を失うことは、それによって保たれていた一種の秩序を失うことになるのだ。
フレイアはぐっと拳を握りながら新聞の一点を見つめる。
ーー【黒ひげ】マーシャル・D・ティーチは火拳を捕らえた功績により、王下七武海の席につき……
「黒ひげ……ティーチ……アンタ、一体どういうつもりなのよ……」
かつて寝食を共にした男を思い出しながら、髪を風に遊ばせる。フレイアの険しい表情を見たリオンは、自らの首から下がっている鎌型のペンダントトップを握りしめた。
「フレイア」
「なに?」
「本気でやった方がいいか?」
「?」
リオンの問いの意味を理解できなかったわけではない。その提案が出たことに驚きながら、フレイアはリオンを振り返る。そして、困ったように笑ってみせた。
「それは、アンタに任せるわ」
「……そうか」
静かに頷いたリオンを一瞥して、フレイアは再び前を見た。一行を乗せた船は猛スピードで新世界の海を滑っていく。