第15章 背中を追うこと、隣に立つこと
エル・ミラージュの甲板では金属を打ち合う音が響いていた。同時に重いものが空を切る。フレイアの蹴りを避けたリオンはしゃがんだバネを利用してフレイアの喉元目掛けてナイフを向ける。紙一重でそれを避けたフレイアは、彼の手元めがけて刀を持った手を振り下ろした。
「チッ」
「まだまだ」
お互い模造刀などではない普段の相棒を使った手合わせは、この船ではよくある光景だ。それは少ないメンバーで効率的に戦うために、普段からお互いの手を知り尽くすためでもあった。味方に向けるには鋭すぎる殺気も、慣れれば誰も気にしない。
甲板の上で命のやりとりを繰り広げる二人が止まったのは、船の中からけたたましい足音が聞こえたからだった。同時に手を止め、不思議そうに船内を見つめ始めるフレイアとリオンに一拍遅れて、観戦していたミレイも同じ方向を見る。
非常事態でもない限り船の中を走る人間は、クルーの中にはそういない。つまり、今走っている人間にとって非常事態が発生しているということ。船の中にいるのはレオーラとマリンの二人だ。何事かと身構える三人の前に現れたのは……。
「フレイア!」
「レオ、どうしたのよ。珍しいわね」
肩で息をする男にフレイアが目を丸くすると、黙って紙の束が差し出された。ニュース・クーの運んでくる新聞だと気付いたフレイアはそれを受け取ってパラパラと目を通す。
「!」
「頼む、フレイア。行かせて」
真剣なレオーラの声にミレイとリオンも後ろからフレイアの手元を覗き込んだ。「火拳 マリンフォードでの公開処刑へ」そうシンプルに書かれた見出しに二人は息を呑む。
火拳と呼ばれる男が白ひげの船で隊長を務めていることは周知の事実だ。そして、その彼が単独で仲間殺しをやった元・仲間を追っていることは2週間ほど前に知ったこと。そこからの大きな躍動に言葉を失った。
「……ミレイ、リオンを呼んできて」
「わ、分かった」
フレイアの冷静な言葉を受けてミレイが船内に走っていく。その背中を見送りながらも、フレイアは顎に手を当てて日数を計算する。
「ここからマリンフォードまで……ギリギリね」