第2章 superfluous power
「だ、れが……ゲホッ」
地面に叩きつけられて咳き込んでいると、目の前にコバルトブルーをした実が突きつけられる。
「食え」
「嫌よ」
近づいたせいだろうか、頭の中で海の声が一層強くなった。それに顔をしかめながらも、フレイアはしっかりと男を見つめて拒絶の言葉を口にする。すると、男がおもむろに取り出した銃で怯えて蹲っていた妹の足を打ち抜いた。その瞬間、少女の鋭い悲鳴が部屋中に響き渡った。
「ほら、どうする? あいつが死ぬまで問答を続けるか?」
「っ……!」
初めて男を見上げるフレイアの顔に動揺が走った。今の自分には選択権など与えられていないのだと認識して、唇を強く噛む。揺れる蒼い瞳を見て、男は満足そうに笑うと悪魔の実を持った手を伸ばした。フレイアが震える手をゆっくり持ち上げる。
途端、建物が大きく揺れた。
「な、なんだ!?」
「ボ、ボス!! 敵襲です!!」
「はァ!?」
(良かった。ちゃんと伝わってた)
下っ端らしい若い男の言葉と、僅かに響いてくる聞き覚えのある声にフレイアは小さく笑みを零した。
時を少し遡り、丁度、気絶したフレイアが路地裏から運び出されている頃、シャンクスは港の入り口でひたすら子供を探していた。
(くそ、流石交易の中継地点だけあって人が多いな)
大人達の波に流されないようにしながら、ひたすら自分より小さな影を求めて視線を動かす。
「シャンクス! お前そんなところで何やってんだ!?」
声の方に一瞬意識を向けると、珍しく焦りを隠そうともしないファイがバギーを抱えて走って行く。バギーの顔色が酷いあたり、乗り心地は最悪なようだ。
「バギー! 泣いてる女の子を見なかったか!?」
「さっき……」
船の方へ遠ざかっていく背中に叫ぶが、バギーが返答するより周りの見えていないファイが走る方が早かった。知っているような様子にシャンクスが歯噛みする。
「あの親バカ。いつもの冷静さはどこに捨ててきたんだよ」
「はは、あんたも冷静じゃないね」
突然、麦わら帽子を強く押されて視界が塞がる。慌てて帽子を持ち上げて振り返ると、ミランダが息を切らせて立っていた。
「泣いてる女の子なら市場から港に来る道で見たよ」
「本当!?」
「嘘ついてどうすんだい。アンタが今探してるってことは、フレイアを探すのに必要なんだろ? ほら、行くよ」