第14章 嵐の前の帰省
「遅い!!」
グランドラインの入り口、大きな鯨のラブーンにフレイアが挨拶していると近付いてきたエル・ミラージュ号から怒声が響いてきた。それに平謝りしていると、ラブーンは嬉しそうにフレイアに向けて口を開ける。
「あ、クロさんが呼んでる」
「また入るのかよ、ここ……」
「いいじゃない。出られるんだから」
エル・ミラージュにフレイアの乗ってきた船を格納すると、ラブーンが焦れたように息を大きく吸い込む。すると、甲板にいたミレイが大きな声を上げながらその場にいたリオンにしがみついた。
「おいミレイ、邪魔だ」
「だって、これ、え?」
「ああ、ミレイは初めてだっけ」
見張り台にいたレオーラはするするシュラウドを伝って降りてくる。そうして話している間にも、船はラブーンの口の中から喉へと進路をとっていった。不寝番明けで船の中で眠っていたマリンも眠そうな目を擦りながら出てきたことで、ようやく甲板に全員が揃う。
「これ、出れるよね?」
「出られるって言ったろ。鯨の中に住んでる医者に会いに行くだけだ」
「鯨の中に住んでる医者!?」
ミレイが口と目を大きく開けて驚いている間に船は胃袋の入り口へと到達した。暗い通路から明かりが見えてくるのを視認して、フレイアが楽しそうに笑う。
「さぁ、来るわよ」
「……」
相変わらずリオンにしがみついたまま、ミレイは前を見据える。そんな彼女の視界に入ってきたものといえば……。
「空……?」
鯨の胃の中にも関わらず、明るく青空の広がった風景。そしてまるで胃液が海水だったように浮かぶ島にミレイは驚くを通り越して見入ってしまった。
「おいミレイ、もう子供じゃないんだから重い」
「そういうの女の子に言うの最悪だと思う!」
そう言いながらリオンの背中を勢いよく叩くミレイは、もう少女の姿をしていなかった。年相応の顔立ちと体格になった女性ながら、少し言動は子供っぽさを残したアンバランスな様子にリオンは小さく溜息を吐く。
正式にこの船の一員になってから、ミレイの体は少しずつ成長を始めた。過度のストレスによって成長を止めていたのだろうという、リオンの見立ては当たりだったのだ。順調に育ち、黙っていれば27歳と名乗って違和感がないまでに成長したものの、記憶に関してはそうもいかず、結果的に幼さが残っている。そんな、チグハグな27歳児。