第13章 A straw hat
すべての戦い、そしてクリークを連れたギンを見送ったフレイアは誰にも告げずにそっとその場を後にした。能力で作り出した船に乗り、一人静かに仲間の待つグランドラインに向けて進む。
(会いたかった相手に会えたし、今回の旅は大成功ね)
微笑みながら酒を呷ったフレイアはポケットから小型の電伝虫を取り出すと、もう慣れた相手を呼び出す。数コール後に「もしもし?」と聞こえてきた声が眠そうなのを感じて、フレイアは小さく笑った。
「なに? また二日酔い?」
『あ? おお、フレイアか。いや、昼寝だ』
「お気楽な皇帝サマね」
肩をすくめるフレイアに対し、シャンクスは「うるせェ」と笑って見せた。
カリーダ島で別れてから10年間、フレイアとシャンクスはこうして時たま連絡を取るようになった。広い新世界で遭遇することはなかったものの、新聞以外お互いの情報を得られなかった過去に比べれば、随分な進歩だった。それは酔っ払ったシャンクスがかけてくることもあれば、フレイアが暇つぶしにかけることもある、二人にとって気楽な関わり方だった。
『ところで、どうしたんだ? お前のことだ。何か用があったんだろう?」
「ルフィ君に会ったのよ」
フレイアの言葉に電伝虫が目を瞬かせる。
『イースト・ブルーに行ったのか!? 元気だったか!?』
「ええ。賞金2千万ベリーくらいの海賊をぶっ飛ばしてたわ」
『ハハハ、そうか、あいつも強くなったんだなァ』
「まぁ、まだまだって感じだったけど」
先ほどまでの闘いを思い出しながら、フレイアの頬には笑みが浮かんでいた。シャンクスもそれを感じたのか「嬉しそうだな?」と言う。
「そうねェ……少なくとも、シャンが帽子を預けたくなったのも分かるかな」
『……そうか』
「利き腕落としてきたことは許してないけど」
『そう言うな』
困ったように微笑む電伝虫を眺めながらフレイアは船の中に寝転んだ。西に傾いている太陽を眺めながら、そっと目を閉じる。