第13章 A straw hat
「このまま心臓を貫かれたいか。なぜ退かん」
「さァね……わからねェ……ここを一歩でも退いちまったら、何か大事な今までの誓いとか約束とか……いろんなモンがヘシ折れて、もう二度とこの場所へ帰って来れねェような気がする」
「そう、それが敗北だ」
「へへっ……じゃあなおさら退けねェな」
「死んでもか……」
「死んだ方がマシだ」
ゾロの言葉にフレイアはパチリと目を開いた。同時にミホークが小刀のを引く。
「小僧……名乗ってみよ」
「ロロノア・ゾロ」
「憶えておく。久しく見ぬ”強き者”よ。そして剣士たる礼儀をもって世界最強のこの黒刀で沈めてやる」
背中にあった身の丈より大きな刀を抜くミホーク。そして3本の刀を風車の様に構えるゾロ。両者の交錯は――一瞬だった。何者にも邪魔されぬその刹那は剣士にとっての永遠。
小さな芽の確かな輝きを見たフレイアは心の中で拍手を送った。
(いい仲間がいるじゃない、麦わらの少年)
敗北を悟り、ミホークの刀の前にその身を差し出すゾロ。
「背中の傷は、剣士の恥だ」
「見事」
胸を真一文字に切られたゾロが海に落ちていく。それを見たフレイアは助けようと飛び込んでいく二人ごと海の民の力で海水を持ち上げ、バラティエの船の上に落とした。そして、ミホーク目掛けて飛んできたルフィを片手で受け止める。
「よく見守ったわ。でも貴方が今すべきは、仲間を助けることじゃない?」
「!!?」
甲板の上で血を吐いたゾロを見て、ルフィは安堵した表情を見せる。それを見たミホークは高らかにゾロへのはなむけの言葉を叫んだ。
「我が名、ジュラキール・ミホーク!! 貴様が死ぬにはまだ早い。己を知り、世界を知り!! 強くなれロロノア!! おれは先、幾年月でもこの最強の座にて貴様を待つ! 猛る己が心力挿して、この剣を越えてみよ!! このおれを越えてみよ、ロロノア!!!」
「随分気に入ったもんね……」
(ま、同感だけど)
ふっと力を抜いて笑うフレイアの隣で、ミホークはルフィを見下ろした。
「小僧、貴様は何を目指す」
「海賊王!」
「ただならぬ険しき道ぞ。このおれを越えることよりもな」
「知らねェよ! これからなるんだから!!」