第2章 superfluous power
誰かに呼ばれた気がした。
薄っすら目を開いた途端、頭部に走った鋭い痛みに呻いた。なるべく動かさない方が良いと判断して、フレイアが視線だけ部屋の中を素早く走らせる。自分より小さいか、同じくらいかという子供達が、皆俯くか啜り泣きながらまばらに座っている。一様に足枷だけはめられており、手は自由なようだがすっかり力が抜けきって地面に落ちた手に抵抗の意志は見られない。
「……起きた?」
「……貴女は」
「お姉ちゃんがごめんなさい」
先程逃がした少女に瓜二つな姿をみて、フレイアはホッと胸を撫で下ろした。彼女本人ではない。彼女はまだ捕まっていないの。
「お姉ちゃんを逃がしてくれてありがとう」
「……貴女は強いわね」
妹のためにと動いていた姉を思い出してフレイアが小さく笑う。自分だって十分危険なのに、お互いを思いやる姉妹に嵌められた人間ではあるが、不思議と恨みは湧かなかった。
(そもそも、あの人攫いがいなかったらこんなことにならなかったんだものね……)
扉の向こうから聞こえる複数の笑い声に眉を顰めて目を閉じた。横腹と頭部の痛みが特にひどい。ポケットの中に入れていた電伝虫はなくなっている。短刀も勿論ない。足は鎖の範囲しか動かせない。
「他人任せは気に食わないけど、もう出来ることは少ないかな……」
父をはじめとするクルー達が脳裏をよぎり、罪悪感で僅かに胸が痛む。こんなの騙された自己責任だが、あのお人好しのクルー達が自分を見捨てるとも思えない。そもそも誰が見捨てても、単騎で飛んできそうな父親だ。
(こんな心配をかけてるうちは、私もまだまだ子供か)
見返してやると意気込んでいた自分を思い出して自嘲する。見返すどころか余計な迷惑をかけてしまっている。暫くは大人しく良い子でいなくては。
「シャンとバギーへのお土産、買えなかったな……」
「おい、哀れなガキども」
「!」
突然、扉が大きな音をたてて開かれた。下卑た笑みを浮かべた見覚えのある男達をみて、ゆっくり体を起こす。何故か嫌な予感がしてフレイアは唾をのむ。
「はは、全員そんなに落ち込むなよ。お前らにチャンスをやろうって話だ」
(……チャンス?)
予想外の言葉に眉間に皺を寄せると、男の一人が懐から箱を取り出した。
「お前等のうちの一人を売らずに、俺達の仲間にしてやろう」