第13章 A straw hat
「んん、やっぱり美味しい〜」
海上レストラン バラティエ。元海賊船の船長が料理長を務める異色のレストランにおいて、フレイアは笑顔で食事を楽しんでいた。他の客が副料理長にボコボコにされていようと、天井から料理長と少年が降ってこようと、そんなものグランドラインの悪天候に比べればどうというものでもない。
ふかふかのパンの最後の一口を食べ終えてからきっちり「ごちそうさまでした」と呟き、ようやく騒ぎの中心に目を向ける。
「……どういう状況?」
コック三人が睨み合う光景にクエスチェンマークを浮かべながらも、その騒ぎのそばにいる麦わら帽子の少年を見て目を瞬かせる。そしてお代をテーブルの上に置くと、ルフィの背中に向かって一歩を踏み出した。
「ねぇ君」
「太尉! フルボディ太尉!」
フレイアの声を遮るように大声が船内に木霊す。凶悪な海賊の一味が逃げ出したという海軍の言葉に、船内に動揺が広がった。そして、構わずルフィに向かって話しかけようとするフレイアを再び邪魔する銃声。
流石に舌打ちをして不機嫌を露わにするフレイアのそばをすり抜けていったボロボロの男は、椅子にふんぞり返って「飯を持って来い」と要求をする。その顔に見覚えを感じたフレイアは一旦ルフィに話しかけるのを諦めて、その場を見守ることにした。
(なーんか、面倒臭いことになりそう)
「やっぱり面倒くさいことになった。なんなのよ全く」
ドン・クリークの登場により一気に殺伐とした船内の片隅でフレイアは大きな溜息を吐いた。そして、チラリと自分の愛刀を眺める。あの程度の敵を斬り伏せることはフレイアにとって赤子の手をひねるくらい簡単だ。
しかし……と思いながらフレイアはルフィとサンジの背中をながめる。先程船外で行われた仲間になるならないのやり取りを盗み見ていたフレイアはフッと力を抜いて微笑んだ。
(任せてみますか。それにしても……)
コックを撃ち抜いて「最強」を息巻くクリークを眺めながらフレイアは溜息を吐いた。
(軽々しく口にするんじゃないわよ、その言葉を。蛇を呼ぶわよ)
ゼフに「落武者」と呼ばれても尚、自分に足りなかったのは情報だと宣うクリークを見て仄かな頭痛を覚えたフレイアは、じれた様に刀の柄に指先を滑らせる。