第12章 覚悟と夢
「そう言えば、その子の能力って何なんだ?」
死体の処理をするべくリオンが応援を呼びに行くと、ベックマンがミレイを指し示しながら尋ねた。それに対しミレイは「えっと……」とフレイアを見上げる。フレイアは黙って自分の右手を差し出した。そして、手元に作り出したナイフで小さく傷をつける。
「一瞬だから……見逃さないでね」
そう言ってミレイが両手を翳すと、フレイアの傷が白い光の円で切り取られる。そして……みるみるうちに傷口が塞がっていった。
「こりゃすげェな」
「ヒルヒルの実の能力よ。だからあの男はミレイを重傷の仲間がいるって言って連れ出そうとしたわけ」
「その仲間がいたとしても、海の藻屑だろうがな」
「そうね」
船を沈めたことも悪びれていない様子のフレイアを見てシャンクスは声をあげて笑う。ますます父親であるファイにそっくりだと思いながら、フレイアを見つめた。
「強くなったな、フレイア」
「シャンは弱くなったわね」
「返す言葉もないな」
そう言いながらも不敵に笑うシャンクスに対し、フレイアはそっと目を伏せる。そしてゆっくり唇を開いた。
「ねェ……シャン、船での約束覚えてる?」
「……あァ」
「そう……じゃあ」
顔をあげると、フレイアはビシッとシャンクスに向かって拳を突き出す。
「10年待ってあげるわ」
「……」
「10年経ったらまた会いましょう。その時までに落としてきた左腕の分までその右手で背負えるようになっておいてよね」
「……ああ、分かった」
そう応えながらシャンクスはフレイアの手に自分の拳を軽く突き合わせた。
かつて夜空の下で交わされた約束が青空に塗りつぶされる。
その約束が果たされる日は――。