第12章 覚悟と夢
「はァ!? 9億!?」
「ほぼ10億よ」
どこか不機嫌そうな響きでそう言ったフレイアは男達の目には追えない速度でステップを踏み、刀を振るう。男達も必死に武器を構えて応戦しようとするが、男達がフレイアを見つけたと思う頃にはフレイアはそこにはいない。完璧な蹂躙だった。
「おーおー、流石だな」
口笛を吹きながら眺めるシャンクスの腕の中では、ミレイも共にフレイアが血の海で踊っている様子を見つめていた。瞬きもせずじっと見ている少女に、シャンクスは静かに尋ねる。
「辛くないのか? 見なくてもいいんだぞ」
シャンクスの言葉にミレイは黙って首を振った。
「……見なきゃいけないの。だってこれは……私が望んだことだから。それに……フレイアと一緒に行くなら避けては通れない道だから」
「……そうか」
自らの船長と少女のやり取りを聞いていたベックマンは、紫煙を吐き出しながらリオンにチラリと視線を送る。
(どんなに小さなことでもいいから夢を持って、それを叶える為に生きる覚悟……か)
5分にも満たない短い時間……しかし男達には永遠だっただろう。一人残らず地に臥せっている死体の山の上で、フレイア一人が静かに立っていた。その刀身はあまりの鋭さ故か血にも濡れておらず、フレイアの白いコートにも返り血ひとつついていない。異質な美しさにシャンクスは息を呑んだ。その姿が、かつての彼女の父親と重なった。
「……本当に、惚れ直す」
「なんだ惚れてることは認めるのか」
「うるせェよ。仕方ねェだろ。あんなイイ女が初めて出会った同年代の同じ夢を持ってる相手だったんだぞ」
「それは……仕方ねェかもな」
やれやれと言いたげなベックマンにシャンクスは小さく舌を出しつつ、ミレイを腕から下ろした。弾かれるようにフレイアに駆け寄っていったミレイは迷わずフレイアに抱き着いた。
「汚れるわよ」
「大丈夫」
「……まったく」
今にも泣きそうなその身体をそっと抱き寄せつつ、フレイアはそっと目を瞑る。
(どうかこの子に海のご加護があらんことを)