第12章 覚悟と夢
「悪いなお嬢さん、今はひとの命がかかってるんだ」
「その命、娘の話を聞くより大事なの?」
「娘の話なら後からでも聞ける。今は」
「おいおい、どうしたんだよオルク」
「喧嘩かぁ?」
「ああ、いやコイツ等が……」
港の方からゾロゾロと現れた男達に父親が振り返る。どうやら仲間らしいと察したフレイアは腕を組んでその顔を見渡した。
(何人か……手配書で見た顔。海賊ね)
「おうおう、お嬢さん。おれ達の仲間にケチつける気か」
「ケチなんかつけてないわよ。数年ぶりに再会した娘への対応じゃないって言ってるだけ」
「娘ぇ?」
フレイアに迫っていた身長2メートルはあろう男は、オルクを振り返った。その視線の先で少女の姿をみつけると、男は目を見開く。
「ミレイ!? オマエなんでここにいるんだよ! だってあの日捕虜で」
「おい、黙っとけ」
「捕虜って……」
目を瞬かせるミレイを見て舌打ちをしたオルクは強引にミレイの手を引く。しかしそれは鞘に入ったままの刀によって阻まれた。
「……どこに行くつもり?」
「っ?!」
一瞬前まで背後にいたフレイアが目の前にいることにオルクは驚いて2歩ほど下がる。動きを追えたのは、フレイア側の人間だけだった。その事実を見て鼻を鳴らしたフレイアは、澄んだ瞳でミレイを見つめる。
対して、フレイアに射抜かれたミレイはそこから目が離せなくなった。紫水晶のような球面に映る自分の顔が情けないほど怯えているのを見て息を呑む。
「ミレイ……貴女、夢はある?」
「ゆ、め?」
「オイ、なんの話だそこを退け!」
喚くオルクなど目に入らないとばかりに無視をしたフレイアは「そう、夢」と噛み締めるように呟く。
「どんなに小さなことでもいいわ。叶えたい夢は何?」
「お父さんと……」
「会えたじゃない」
「……」
ミレイは涙で震える瞳で父親を見上げた。フレイアを睨む男の顔と、かつて自分の手を引いてくれた優しい笑顔の男、そして……自分に能力を使うよう強制してきた男の顔がダブる。
「……わたし、は」
「……」