第12章 覚悟と夢
しばらく村の中を歩き、奥まった森の入り口にその家はあった。緑の屋根にベージュの壁の小さな家は、ミレイの記憶よりかなり色褪せてはいたものの、そこが自分の帰る家だと疑わない自信はあった。
震える手で扉をノックすると「はい」という女性の声がした。そのことにミレイが固まっているのと、ゆっくり開いた扉の中から気怠げな金髪の女性が顔を覗かせる。
「何か用ですか?」
「……」
「あの……」
「旦那さんはご在宅では?」
「……知りません。海に出てることしか……貴女、海軍? 私はなにも知りませんよ」
フレイアの纏う白いコートを見てか、女性は気まずそうに視線を逸らしながら早口になる。絶句しているミレイの代わりにフレイアは口を開いた。
「ええ、まぁ。ここのお嬢さんが海賊船に囚われていましてね。彼女の願いを聞いてご自宅にお返ししに来たというわけです」
「ご自宅って……ここですか?」
怪訝な顔をした女性はミレイをまじまじと見つめる。そして小さく首を振った。
「何かの間違いでしょ。あの人の子供、数年前に死んだって聞いてるわ」
「……」
「……そうですか。では、旦那様が戻られたらこちらにご連絡いただけますか? 旦那様にも確認したいので」
「え、それは……その……」
視線を泳がせた女性は、しかしフレイアの圧に負けたのかおずおずとフレイアの差し出した紙を受け取った。それを確認したフレイアはミレイの手を強く引く。
「それでは」
「え、ええ……」
ミレイの足がもつれて動かないのを見たフレイアは、扉が閉まるのを確認して彼女を抱き上げた。黙ってフレイアのコートを握りしめる少女の頭を撫でてやりながら、ゆっくり足を港の方に向ける。ただ赤子のように丸まっているミレイにかける言葉もなく、フレイアは先程の会話を頭の中で反芻する。
(恐らくミレイの父親はお尋ね者……生活に窮してミレイを売ったのかと思ってたけど、何か違う? まぁどっちにしろ、ロクデナシなのは変わらないか)
ずっと黙ったまま小さくなっているミレイを抱いたままフレイアが村に戻ってくると、何やら騒がしくひとの大声が聞こえてきた。