第12章 覚悟と夢
村人達がオロオロと遠巻きに見守る中、タラップを一目散に降りていくミレイとその弾ける笑顔を見ながら手を引かれるフレイア。他の三人はその二人を船の上から見送った。
「お前達は行かなくていいのか?」
「それは……フレイア次第かなァ」
「?」
やれやれと言いたげな鏡面海賊団のクルー達に、赤髪海賊団はきょとんとした顔を見せる。しかし、すぐに副船長であるベックマンの号令がかかり、慌ただしく動き始めた。彼らは元より補給目的で港に入ったので当然だ。
そんな騒がしい甲板の端の方で、船長のシャンクスだけが静かにフレイア達を見送っていた。
最初は意気揚々と歩いていたミレイだが、港に集まっている人集りの中に自らの父の存在がないと知り、どこか複雑そうに顔を伏せた。そんな彼女に対し、どこか気の毒そうに……しかし丁寧に接する大人達にフレイアは静かに前を見据える。
「ミレイ、とりあえず家に行きましょうか」
「え、あ、うん!」
フレイアに手を引かれ足を踏み出す。一歩進むごとに記憶が鮮やかに蘇る。
早くに亡くなった母親、仕事で家にいるのは朝と夜だけの父親、たまに遊びにくる近所の友達……しかしその記憶は何処かで途切れて、次の瞬間海賊船に飛ばされる。
――さっさと能力を使え! オマエにはそれしか価値がないんだからな!
「っ!!」
急停止したミレイの足に合わせて、フレイアは振り返った。小さな肩が震えているのを見てゆっくり手を伸ばす。
「怖い?」
「……うん」
「なにが怖いの? お父さんにようやく会えるのに」
「お父さんにとって、私がいらない子供だったら……どうしたらいいか分からない」
そう言って声を濡らす少女にフレイアは黙って背中を撫でた。
(ここで、じゃあやめる? って言える人間だったらよかったのにな……)
否、言うのは簡単だ。しかし、それを言ってしまった先に彼女を船に乗せることはできない。それはフレイア自身が決めたことだ。
「もし、そう言われても……貴女を受け入れてくれる場所は必ずあるわ。それだけは、忘れないで」
「……」
「行ける?」
「……うん」
鼻を啜りながらも頷いたミレイの頭を撫でると、フレイアは恭しく彼女の手を取った。姫をエスコートする騎士のように。