第11章 再会は降ってくる
よくあることだと言いたげな顔でそう宣ったリオンにベックマンも事も無げに「そうだな」と呟いた。平気で人が売買され、奴隷になっている姿をベックマンも幾度となく見てきた。それが、たとえ小さな子供であっても……。
「本人は?」
「売られる前の記憶があやふやなんだと。父親と二人で暮らしてたのは確からしいが……」
「つまりその父親が怪しいわけか」
「ああ。おれもレオもさっさとこのことを話して諦めさせるべきだって言ったんだけどな……」
「船長が反対したか?」
「まぁな」
苦々しい顔をしながらリオンはタバコの灰を海に落とした。
「『本人の目で真実を見極めさせるべきだ。それからのことも、彼女に決める権利がある』の一点張りでな。頑固で参る」
「まぁ、実際正論ではあるな」
「まぁな。アイツも17だし」
「……? 17歳ってことか?」
ポカンとした顔で自身を見つめるベックマンにリオンは煙を吐きながら頷いた。
「生まれ年から計算したから間違いない」
「しかしあの子の見た目はいいところ10歳だろ」
「体の成長なんて栄養失調だのストレスだの、色々な要因で止まるさ。どの道、ロクな理由じゃねェがな」
「……」
「アイツは記憶も不確かだから尚更だ。少なくともおれ達の扱いは10歳未満のガキだから、アンタの認識も間違ってねェよ」
2本目のタバコを取り出しながらリオンは唇を歪めて笑う。自嘲するようなその笑みにベックマンは押し黙ることしか出来なかった。
「正式な船員じゃねェって言ってたな」
「ああ」
「乗せる気があるってことか? 鏡面は」
「乗せる気しかねェよ。アイツは……面倒くさい奴しか乗せたがらねェからな」
「……ひとの船のことに口出すのは性に合わんが」
「じゃあ出すな」
リオンはピシャリと言い切ると、真正面から胡乱な瞳をベックマンに向けた。金色の瞳が、今は夜の海より黒々として見える。その深淵に映る自分を見ながらベックマンは息を呑んだ。
「どんなにガキだろうと、覚悟があるならウチは乗せる。逆に言えば、覚悟がねェならどんなに実力があろうと乗せることはない」
「ちなみに、どんな覚悟だ」
ベックマンの問いにリオンは海を見ながら口を開いた。
「どんなに小さなことでもいいから夢を持って、それを叶える為に生きる覚悟」