第10章 カケラが集まって今になる
ユピレは握りしめていたファイの刀をそっとフレイアの前に差し出した。フレイアは無言でそれを受け取る。ずしりとした重みは、刀だけのものではないだろう。
(お父さん……おかえりなさい)
そっと両手で刀を抱き締める。それが当時のフレイアに言える唯一の別れの言葉だった。
――コンコン。
意識を現在に戻すノックの音に、フレイアは「どうぞ」と答えた。静かに扉を開けた黒髪の青年は「サボりか?」と言いながら船長室に足を踏み入れる。そんな男を前にフレイアは机に頬杖をついて笑った。
「自分の部屋の分は運び終わったわよ。荷解きくらい、海の上でもできるでしょ」
「生憎、おれとオマエしかいない海賊団なもんでな。本当にその余裕があるか考え物だぞ?」
「二人でも十全に機能するように最新の技術を詰め込んだんだもの。なければ困るわ」
今荷物の詰め込みを手伝ってもらっている顏馴染みは、皆この島に残ることになっている。9年前、ファイと別れた後にフレイアに一度は叩きのめされ、彼女の強さに惚れ込んで共に歩んできた仲間達だが、故郷の町でかつての自分達のような身寄りのない子供たちを守ってほしいというフレイアの願いを叶えるため、彼らは涙を呑んで船に乗ることを断念した。
「アンタはよかったの?」
「なにが?」
唯一、彼女に同行する青年を前にフレイアは眉根を下げて笑った。
「残らなくて、よかったの? アンタだって心残りがないわけじゃないでしょう?」
「……まァ……ないと言えば嘘になるだろうな」
青年は腕を組んで視線を窓の方に向けた。建物がひしめき合う貧民街……フレイアが9年間生きてきた街の向こうに、大きく豪奢な建物が存在を主張している。その中でもひと際目立つ赤い和風建築を見つめた男は肩を竦めた。
「アイツらとおれは事情が違う。おれは、オマエの夢に命を預けるって決めた。それに足抜けしたおれは、ここじゃあ本来追われる身だしな」
「約束されていた未来より私の夢を取るなんて酔狂よね、アンタも」
ニッと笑うフレイアに対し、青年は「かもな」とすげなく言い切った。
「フレイア! 荷物の詰め込み終わったぞ」