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鏡面【ONE PIECE】

第10章 カケラが集まって今になる


 それは『剣聖』とまで呼ばれた男にしてはあまりも静かな死だった。ロジャーの時のように世界中にその日が告知されてもおかしくはなかった。しかしそうなれば、フレイアの耳にも入る。そうすれば自分を助けようと乗り込んでくる可能性だってなくはない。ファイがフレイアを大切に思う気持ちと同じくらい、フレイアにとってもファイは大切な存在だとファイはきちんと理解していた。
 その父親の想いをすべて正しく理解した上で、フレイアは血が滲むほど唇を噛み締めた。目の前の男を責めることなど簡単だ。しかし、これは一から十まで父親が望んだシナリオだと分かってしまった。そしてそれは、まごうことなきフレイア自身を守るためだった。
(お父さんの……バカ!!)
 俯いてひたすら体を震わせる少女を見下ろしながらユピレは処刑の日の朝、ファイと交わした言葉を思い出していた。


――いいのか? 本当に。
――なにがだ。
――……フレイアに遺体を渡すことはしないぞ。
――構わねェさ。アイツに残してやるのは刀だけで良い。頼んだぞ。
――賭けに勝ったのはお前だ。約束は守るさ。
――ならいい。
――……。
――おれは、生涯愛した女一人守れなかった男だ。
――そうだな。
――だから、マイアの残したおれ達の誇りは……フレイアだけは命に換えても守ると誓った。ただ……それだけなんだ。アイツが将来どんな存在になろうと、それがアイツの選択なら尊重するさ。
――アイツを傷つけることで守ったつもりか。
――はは、耳が痛いなァ……大丈夫さ。アイツはおれとマイアの娘だ。乗り越えてくれる。そう、信じてる。



 最後まで身勝手なあの言葉を目の前の少女に伝えたらどう思うだろうか。そう考えて、ユピレはすぐに笑った。
(きっとそれを糧に前を向くんだろうな……)
 その時、下を向いていたフレイアが顔を上げる。絶望や悲しみではなく熱情をたたえた強い眼差しにユピレはやっぱりと言いたげな顔で小さく息を吐いた。涙一滴流さないで感情の奔流に耐えてみせた彼女は、自分の立場を分かっているとそれを見て悟った。
 泣いている余裕など無い。彼女には守ってくれる存在などいない。この世界でそれがどれだけ残酷なことか、海軍として様々な場面に立ち会ってきたユピレは痛感している。
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