第10章 カケラが集まって今になる
(お父さんに私しかいないんじゃない……私にお父さんしかいないんだ……)
俯き加減で待ってもらっている貨物船を目指しながらフレイアは強く腰の刀を握りしめた。それだけが、今の彼女を守る唯一の力だった。
長いようで短い回想から戻ってきたフレイアは、自分の腰にある刀に視線を落した。そこにあるのは、かつて彼女が相棒としていた刀ではない。長く使われているにも関わらず、その黒塗りの鞘にも傷ひとつない。そして……抜けばその透明な刀身を晒す、かつて剣の世界で最強との呼び声高かった男の手の中にあったものだ。
鞘に指を走らせたフレイアの目には、それを持って自分の元を訪れた祖父の顔が浮かんできた。
――7年前。
「なんで……なんで」
それを持って自分の元にくるのが父親ではないのか。そう彼女が言いたいのを察したように、ユピレは懐から新聞を取り出してフレイアに突き出した。震える手で受け取ったフレイアはその一面を飾る記事の見出しに釘付けになる。
『剣聖』処刑……そうシンプルに書かれた文字と、手かせを嵌められた写真は紛れもなく父親がもうこの世にいないことを示していた。
「なんで、だって、そんなニュースまったく」
「アイツの希望だった」
「!?」
動揺を露にするフレイアとは真逆にユピレは淡々と言葉を紡ぐ。ひとけのない海岸に波の音と穏やかな男の声だけが聴覚を刺激する。
「ロジャー海賊団が世間から姿を消して直ぐのことだった。ファイに呼び出されて、2年間本気のおれから逃げ延びたら自首する代わりにお前を自由にしてほしいと言われた」
「なんでそこで私の名前が出るのよ!?」
「アイツが、お前の父親だからだろう」
「……っ!」
ぐっと歯を食いしばったフレイアは拳を固く握りしめる。激情をその身に収めようと必死になっている14歳の少女を前に、ユピレは深海のように濃く青い目を細めた。
「賭けはアイツの勝ちだ。だからこそ、お前に知られないよう情報規制を敷いた上で処刑を行った。マリンフォードでな。新聞に取り上げられたのもこれだけだ」