第10章 カケラが集まって今になる
「!?」
「そんな隙だらけでどうすんだよ」
呆れた声に振り返ると、麦わら帽子の少年が「よっ元気そうだな」と軽く手を挙げた。その後ろでは赤鼻の少年が腕を組んで周囲を警戒している。
「シャン、バギー」
「やっぱり来てると思ったよ」
たった1年離れていただけの二人。その姿を見た瞬間溢れかけた何かをフレイアは唇を噛んで耐えた。厳しい顔つきをし始めたフレイアにシャンクスとバギーは一瞬キョトンとした顔をして、すぐに全てを察したように笑う。
「そうだな、まだ……早いよな」
そう言いながら処刑台を見上げるシャンクスの表情は固い。バギーは唇をへの字に歪めながら視線を落とした。
「お父さん、見なかった?」
「一緒じゃないのか?」
目を丸くするシャンクスにフレイアは曖昧に笑う。
「まぁね……」
「あの娘バカの人がお前一人置いてどこほっつき歩いてんだよ」
「知らない。でもまぁ何とかやってるよ」
「何とかって?」
「路地裏の少年たちのトップになったり?」
「相変わらずじゃじゃ馬だな……」
バギーの呆れた視線に舌を出すフレイアに対し、シャンクスはクスクス笑った。船の上にいた頃と変わらない空気感が心地いい。その場にいた全員がそう思った。
「大人たち全然見ねぇよな……」
「まぁ、海軍が張ってるから来られないのかもね」
あわよくばロジャー海賊団を一網打尽に……と考えている可能性もなくはない。フレイアたち見習いは顔も名前も大して知られていない上に、子供だと見過ごされているかもしれないが、大人たちはそうはいかないだろう。
フレイアの言葉にシャンクスとバギーも小さく頷く。そして、誰からともなく処刑台を見上げた。重い灰色の空模様の中、三人には見慣れた姿がゆっくりと階段を上がっていく。人々が大勢集まりながらも、異様なほどの静けさを保つ広場にその足音だけが響いた。
「……」
「……」
「……」
衆目を見下ろし、いつもと変わらぬ様子で不敵に笑う男に、三人は視線を奪われたままグッと拳を握った。ぽつり、ぽつりと雨粒が降り注ぎ始めるのすら気にならないほどに張りつめた空気の中、海軍がロジャーの成した悪行ーーもしくは偉業を並べ立てる。すべてが本の中の出来事のようにフレイアには感じられた。自分には関係ない、別の世界の出来事のように。