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鏡面【ONE PIECE】

第10章 カケラが集まって今になる


「ふぅ、8割ってとこかな」
 出航に向けての荷物を詰め込み、自分の部屋となる船長室の中でフレイアはそう呟いた。扉の外では荷物を運ぶ足音が慌ただしい。
 休憩しようと新品の椅子に座ったフレイアは、もう十代の少女ではない。手脚はすらりと伸び、しかしそれは同じ歳の頃の女性たちより筋肉質だ。剣を握り続けた掌は硬くなっていた。ポニーテールに結んだ藍色の髪が彼女の一挙一動に合わせて揺れる。
「しかし、私もついに船長か〜」
 感慨深そうにそう言う彼女の言葉にはどこか寂しげな色が宿っていた。椅子同様に新品の机をそっと骨張った指が撫でる。艶のある木目調の机に映った自分の顔を見て、フレイアは小さく笑った。
「もうあれから8年も経ったのね」
 呟いたフレイアの目には降りしきる雨の景色が映っていた。



ーー8年前。ローグタウン。

 フレイアは父親との約束を一度だけ破った。2年間、父――ファイの故郷で一人きりで生き延びるという約束を。
(だって仕方ないじゃない。船長が処刑なんて……)
 人混みの中を歩きながらそう独りごちる。彼女がかつて父親のように慕っていた男の処刑を知ったのは、つい1週間前のことだった。そこからなんとか東の海のローグタウンまで船を乗り継いで辿り着けたのは奇跡に近いとさえ思った。
 海賊王の処刑。そんなビッグイベントを控えた島には人が……特に海賊が多く集まっていた。そんなガラの悪い人間たちの間を身軽にすり抜けながら、かつての仲間たちを探す。
(絶対いるはずよね)
 船長を助ける算段をする者はいないだろう。それは彼の誇りを汚すことになりかねないから。そうだとしても、最期に一目会いたい者たちは大勢いるはずだ……父親も含めて。
 そう考えながらフレイアは今にも雨が降り出しそうな空の下を歩いた。人が多いせいか、どこでも小競り合いが起きては海軍が取り締まっている。そんな中を一通り見て回ったフレイアは、小さく息を吐きながら処刑の行われる広場に足を踏み入れた。
 よく見えるように高台が作られ、そこではこれ見よがしに剣を研いでいる処刑人らしき者がいる。フレイアは自らの刀を強く握りしめて、フードを深く被った。
 その時、不意に背後から肩を叩かれる。
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