第9章 それぞれの明日へ
ファイの言葉にフレイアの目が僅かに輝いた。
「陸に住むの?」
「……ああ。最低2年」
どこか含みのある言い方にフレイアがファイの目を見て押し黙ると、ファイは眉根を下げて困ったように笑った。
「おれは海に出るから、お前は2年間はその島で独りで生きてくれ」
「な、んで……私も連れて行ってよ!」
「ダメだ。おれも独りでやっていく感覚を取り戻したいからな。お前を連れていたら足手まといだ」
「ウッ」
完膚なきまでに負けたばかりなので反論できずにフレイアが唸ると、ファイは頭をポンと叩いた。
「2年だ。2年経ったら迎えに行くよ」
「……分かった」
「逆に言えば、お前も独りで2年間生き延びるんだからな。負けるなよ」
「上等!」
笑い合う親子は並んでデッキに向かって歩いていた。
ロジャーが船を降り、正式に海賊団が解散となったのは、それから3日後のことだった。
フレイアは約束通り、父親と共に最後まで船に残り続けた。「離れられなくなる前に」とロジャーに続く者、駄々をこねてファイに蹴られながら降りる者等々……クルー達も日を過ぎるごとに減っていった。
「じゃあ、おれ達はここで降りる」
「お前、ひとを出しておいて最後に出られなくなるなよ」
「ならないわよ!」
大きな貿易港がある島で、シャンクスとバギーは揃って降りることになった。普段通り何でもない軽口を叩き合いながらテロップを3人で歩く。
「じゃあ、また会おうな」
初めにそう言って離れたのはシャンクスだった。そのあっさりにも感じる言葉が濡れていたことは、2人とも何も言わなかった。
「うん。またね」
「くたばるなよ」
「当たり前だ!」
大きく手を振って去っていった背中を見ながら、バギーは頭を掻いて隣のフレイアに話しかける。
「良かったのか。あんなことしか言わなくて」
「え? 何が?」
「……いや、いい。もうお前らはおれの手に負えねェ」
呆れた顔のバギーは乱暴にフレイアの目元を拭うと、自分も荷物を持って歩き始める。
「じゃあまたな!」
「うん。元気でね!」
「おう!」
バギーの背中が見えなくなるまで船の前に立っていたフレイアは、滲んでいた涙を頬に流しながら船に戻った。
最後に残ったレイリーと共に親子がオーロ・ジャクソンに別れを告げたのは更に1週間後だった。