第9章 それぞれの明日へ
「片付け……?」
呆気に取られて呼び止められなかったシャンクスは、頬を掻きながら立ち上がった。すると、その背後に黒い影が音もなく忍び寄る。
「よう、仲良さそうだったな!」
「ロジャー船長!? レイリーさんに……」
「よう」
「ファイさん……」
1番後ろから現れた姿にシャンクスがぎこちない笑顔を向けると、ファイはゆっくりシャンクスに手を伸ばす。反射的にシャンクスが身構えるも、ファイの手は彼の肩に優しく乗っただけだった。
「礼を言っておく」
「え?」
「フレイアは、おれたちの前だと泣かなかっただろうからな」
「いや、ただ捕まってたに等しいから……」
叱られなくてよかったとシャンクスはホッと笑いながらそう言った。その顔をじっと見ていた男は、不意にシャンクスの肩に置いていた手に軽く力を籠める。
「フレイアのこと、頼んだぞ」
「え、それって」
驚くシャンクスを置いてファイは船内に戻っていった。取り残された3人のうち、大人2人は唯一の子供の背後で苦笑いを浮かべた。
「罵倒以外の口数が少ない男なんだ。許してやってくれ」
「レイリーさん、あれじゃまるで」
「シャンクス」
早口になっているシャンクスを止めたのはロジャーだった。シャンクスが彼の顔を見上げると、ファイの去っていた方に視線を向けたままなのが目に入る。その憂いを秘めた表情にシャンクスは言葉を失って俯く。
「フレイアのことはファイもちゃんとするはずだ。お前の気にすることじゃない」
「でも、あんな言い方……」
「それは……あれだ。海に出てからのことじゃねェか?」
「おれもフレイアも自分の海賊団を持つんだからよろしくされても困るって」
以前そんな話をバギーも含めて3人で話していたことを思い出しながらシャンクスは笑った。それを聞いて「一人前の口ききやがって!」と言いながらロジャーが彼の頭をかき回す。シャンクスは軽く悲鳴を上げながらも逃げることはしなかった。
(……まァ、あの時の約束は流石に忘れられてんだろうけどな)
「あれ、片づけられてる……やっちゃったな」
掃除道具を持って船長室に戻ると、ロジャーたちの姿も床に散らばったエターナルポースの残骸もなくなっていた。フレイアは黙って船長室の扉を閉めると、背中を壁につけて座り込む。