第9章 それぞれの明日へ
ぽんぽんと一定のリズムで背中を叩き、宥めるシャンクスとその優しさに任せて泣き続けるフレイア。その2人をデッキ端から見る3つの影があった。
「帰ってこないと思ったらやっぱりか」
「まあ、船長室でも大分我慢してたからなァ」
「……」
ロジャーとレイリーが船長室での必死に堪えていた様子を思い出して苦笑する中、ファイだけが難しい顔で風に髪を遊ばせる。その横顔を見た2人は、ファイを挟んで両肩を叩いた。
「何だ」
「止めに行かなくていいのか?」
「男女交際反対派じゃなかったか?」
「……別に」
ファイは努めて冷静な声音で答えた。
「何もしねェだろ。アイツは」
「眉間の皺消してからもう一回言ってみろ」
「……」
「ハハハッ」
顰め面を指さして笑われたファイが刀に手をかけたところで、慌ててレイリーが彼の手をおさえた。
「まったく、お前らは最後まで変わらなかったな! おれの苦労を考えろ!」
「ガキじゃないんだ。今更別れるくらいでビービー泣くかよ」
「おれの胸でも貸してやろうか?」
「刀の錆になりたいのか?」
「泣かれた方がよっぽどマシだな」
ハア、と大きな溜息を吐くレイリーを見てファイは苦虫を噛みつぶしたような顔で手を刀から離した。そして、未だに抱き合った状態の自分の娘たちの方を見ながら口を開いた。
「……あの時」
「ん?」
「あの時、お前の誘いに折れて良かった」
「……」
「……」
「……何だよ」
黙って自分の顔を見るロジャーとレイリーを見てファイが怪訝な顔をすると、2人は自分の口元に手をもってきてこそこそと話すように体を寄せた。
「あれ、本当にファイか?」
「素直でいっそ気持ち悪ィな」
「てめェらな……」
額に青筋を浮かべ、再び刀に手を伸ばしそうなファイを見て2人は仲良くホールドアップした。
「悪い悪い」
「珍しくしおらしいこと言いやがるから、ついな」
「……」
「ところで、ファイ」
レイリーはふざけた様子を引っ込めて真剣な顔をすると、眼鏡を押し上げながらファイを見た。
「これからどうするつもりだ。フレイアと2人で元の生活に戻るつもりか?」
「そんなことしたらすぐ死ぬだろ」
「……」
「ちゃんと考えてある。アイツの未来を守るためなら、どうとでもするさ」