第9章 それぞれの明日へ
「オマエを迎えに来て、ちゃんと別れを告げたらおれは船を降りるつもりだったんだ」
「そんな……」
上手く言葉が出てこず、何度も口を開いては閉じるを繰り返しているフレイアに対して、ロジャーは屈託のない笑みを見せる。
「フレイア、お前に渡しておきたいものがある」
「?」
ロジャーの言葉に続いて、レイリーがフレイアに「手を出しなさい」と言った。戸惑いながらもフレイアが両手を差し出すと、レイリーがその手の上にひとつの箱を置いた。
「……エターナルポース?」
箱から出てきた砂時計のような形の羅針盤には島の名前が彫られていない。1点をしっかり指示しているそれを一瞥したのち、フレイアがロジャーとレイリーを交互に見ると、ロジャーは口元を引き締めてからその視線に応えた。
「フレイア、おれ達は最後の島ーーラフテルで全てを知った。その中には、海の民のことも含まれている」
「……」
「おれがここでお前に話すことも出来る。だが、フレイアが自分の目と耳で感じるものと、今ここでおれの話を聞くので知るのではまるで違う」
「待って。じゃあこれって」
「ラフテルのエターナルポースだ」
レイリーの言葉にフレイアは自分の手の中に視線を落とした。その姿を見ながらロジャーは「他の奴には言うなよ。絶対に記録するなって言っておいたからな」と念を押す。しばらくじっとしていたフレイアだったが、突然顔をあげて微笑んだ。
「船長。これ私がもらったってことは、私が好きにしていいんだよね?」
「……ああ、勿論だ」
彼女の意図を察し、ロジャーはニヤリと笑う。その目の前で似た顔をしたフレイアはエターナルポースを宙に放った。そして、手の中に創り出した短刀でそれを真っ二つに斬る。音もなく割れたそれは船長室の床に落ちて粉々に砕け散った。
「良かったのか? 世界中の奴が喉から手が出るほど欲しい代物だぞ」
「だって、自分の目と耳で感じるならその過程だって自分の力で行きたいじゃない。ショートカットなんてガラじゃないし」
「そうか」
(それに……何も分からない私が行って、全てを理解できるような場所なら……おじいちゃんは話してくれた筈よね)
半年前の祖父のことを思い出して、そっとフレイアは目を伏せた。