第9章 それぞれの明日へ
「おっまえ!! 服着ろ!!」
「着替え持ってくるの忘れてたのよ。汚れてる服着たらまた汚れるじゃない」
ムッとした顔で腕を組んだフレイアに対してシャンクスが慌てて走り出した。
「服持ってきてやるから待ってろ!」
「あ、シャンクス! 置いていくな!」
「何よバギー! 私といるのが嫌なの!?」
「動くなお前は!」
背後で言い争う声を聞きながら、シャンクスは外へ走った。あの様子から、オーロ・ジャクソン号に残っているフレイアの服は着ることが出来ないだろうと察したからだ。
「おっと」
「あ、ごめんなさい」
最後の階段を上ろうとしたところで、ひととぶつかって仰け反る。シャンクスが鼻をおさえながら謝ると、何か袋を持ったレイリーが「気をつけろよ」と頭を叩いた。
「フレイアは?」
「あ、服忘れてて今おれが取りに行こうと」
「丁度良かったな。そうだろうと思って持ってきたところだ」
「助かった……」
シャンクスの心底ほっとした顔をじっとみたレイリーは真顔で口を開いた。
「覗いてねェだろうな」
「してないよ!!」
「ファイに殺されるぞ」
「だから! してない!!」
シャンクスとレイリーが戻ると、バギーのシャツを羽織ったフレイアが髪を丹念に拭いていた。バギー本人はそれを視界に入れないようにそっぽを向きながら顔を赤くしている。
「あ、レイさん。どうしたの?」
「……服を持ってきた。風邪をひく前に着替えなさい」
「はーい。ありがとう!」
「それと」
「わっ」
レイリーは紙袋を受け取ろうと手を伸ばしたフレイアの手を軽く引く。予想外の行動に引かれるまま倒れたフレイアは、レイリーの腕の中で顔を赤らめる。
「兄貴達も思春期だからな。気をつけてやりなさい」
「え、あ、はい!!」
「ハハハ、良い返事だ」
軽く頭を撫でて背中を押されたフレイアは速足でシャワー室の中に戻っていく。それを満足げに見送ったレイリーが背後を見ると、苦虫を噛みつぶしたような顔で見習い2人が彼を見上げていた。
「なんだ」
「別に……」
「レイリーさんってやっぱりズルいよなァ……」
「大人だからな」
唇の端を持ち上げる男は、正しく「悪い大人」の顔をする。それを見た子供2人は負けたような気持ちになりながら「ちぇ」と呟いた。