第2章 superfluous power
蚊の鳴くような声で少女が呟いた瞬間、背後から空を切る音がして反射的に前に大きく飛び退いた。
「はは……これはちょっとまずいかな」
慌てて振り返れば、ガラの悪そうな男達がニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。先程の音は男の持っていた麻袋の音だったらしい。男たちのそばでは、少女が今度こそ泣き出しながら1人の男を見上げている。
「い、言われた通りにしたから!」
「おう、よくやったなガキ。フードでよく見えねェが、なかなか上玉だ」
「じゃあ早く妹を返して!!」
(人攫いの集団が、妹を人質にして楽に仕事を済ませようとしたわけか。まんまと嵌められちゃったな)
警戒を解かず、甘い自分の思考を後悔しながらも冷静に電伝虫を操作する。
「無駄よ。こっちに来て」
少女の懇願にもニヤケ顔を崩さない人攫いを見ながら、少女に話しかけると、泣き腫らした顔がこちらを向く。
「初めから貴女も、貴女の妹も逃がすつもりなんかないのよコイツら。みすみす商品を逃がす馬鹿なんかいないわ」
「ヘェ、よく分かってんじゃねェかお嬢さん。その思慮深さが子供相手じゃ働かなかったか? だから子供を使うのはやめられねェのよ。皆んなコロッと騙されちまう」
「え、な、なんで!? 女の子連れてきたら逃してくれるって!」
「おいおい、あのお嬢さんが言ったろ? お前も商品だ」
男が少女に伸ばした手を護身用の短刀で深めに斬りつけると、少女の手を掴んで、自分の方に引き寄せる。電伝虫の向こうで誰かが何かを言っている声が僅かに聞こえるが、反応している余裕は無かった。
「ほんと外道は考えることが最低ね」
「ははは、世の中騙される方が悪いんだよ! 野郎ども、ガキ二匹だ捕まえろ!」
「下がってて」
にじり寄ってくる複数の男達と目を逸らさないようにしながら少女を背中に回す。多勢に無勢、しかも足手まとい付きでは勝ち目は薄い。
「物騒なもの持ち歩きやがって。どこの女だお前」
「さぁね」
札付きの娘だと名乗ったところで、警戒度を上げられるだけでメリットなどない。なるべく穏便に、走って逃げれればベストだが、すっかり力が抜けている少女を捨てられない自分では無理な話だろう。
「今日は厄日かな……っ!!」
力なく独り言を言った瞬間、銃声と共に腕に痛みが走って短刀を取り落とした。
「世の中、飛び道具が一番便利なんだよお嬢さん」
「……」