第9章 それぞれの明日へ
白ひげにそう尋ねられ、シャンクスはそっぽを向きつつも「強かった」と答えた。その言葉にエルトンは笑いながらシャンクスを抱えてクルクルと回り始める。
「ちょ! オイ! 目回る!!」
「ハハハ、鍛え方が足んねェんだよ!」
投げるようにシャンクスを下ろしたエルトンは恨みがましい目をするシャンクスに向かってベッと舌を出した。そこに横からレオーラの蹴りが入る。
「人様の家の子を雑に扱いすぎ。あと子供相手に何してんの」
「いって……」
腰を押さえて蹲ったエルトンを見て、シャンクスはお返しとばかりに舌を見せる。そして、一転して楽しそうな表情で砂埃と鮮血の舞っている場所に目を向けた。
「どっちが勝ちそう?」
「ファイ」
「ファイだろうな」
「剣聖一択でしょ」
「フレイアには悪いけど、まだ勝つには早いかな」
大人達の言葉に一瞬不服そうな顔をしたシャンクスだったが、乱れ始めているフレイアのステップを見て小さく息を吐いた。
「じゃあ、おれとなら?」
「……」
一同が沈黙して顔を見合わせる。ある者は腕を組み、ある者は顎を撫でながらフレイアとシャンクスを交互に見る。
「分からん!」
最初に匙を投げたのはロジャーだった。続くように皆が似た返答をする中、レオーラだけが「フレイアかな」と呟いた。
「あの子相手に、君は無意識にセーブしてそうな気がするし。妹として」
「それは分からんぞ。最初に喧嘩した時に手加減はしないと約束していたからな」
「へぇ……何で喧嘩したの?」
「それは」
「レイリーさん! そういうのいいから!」
シャンクスが慌ててレイリーの口を塞ごうと立ち上がる。すると、勢い余って地面で寝ていたバギーの頭を蹴った。呻き声をあげて目を開いたバギーは、しまったと言いいたげな顔でそばに立つ男を見て眉を跳ね上げる。
「このスットコドッコイ! 人を蹴るんじゃねェ!」
「いつまでも寝てる方も悪いだろ! そもそも今のはレイリーさんが」
「私に罪をなすりつけるな」
レイリーがそう言いながら徐に視線を輪の中心にむける。視線の先では親子が距離をとって同じ構えをとっていた。肩で息をしているフレイアにとって、それが最後の一撃になることは明白だ。
一同が固唾を飲んで見守る中、ほぼ同時に2人の足元の砂が沈んだ。
【明鏡止水】
高速斬撃が2人の間でぶつかる。そして……。