第9章 それぞれの明日へ
カチャリとロジャーのカトラスが僅かな音を立てた瞬間、2組の海賊団のほぼ中央部分で砂埃が舞い上がった。激しく覇気のぶつかる気配と共に強い風が起こる。
【湖月】がぶつかったのだと気付いた者は笑みを浮かべ、分からなかった者は呆然と、その開幕の狼煙を見た。煙幕のようになっている砂を斬り裂くようにフードを被った影がファイに突進すると、危なげなくファイはそれを受け止める。
覇気を纏った斬撃のみが場を支配する中、白ひげが薙刀を前に向けた。
「何を末っ子に見惚れてんだ! 続け!」
「おお!!」
「ハハッ! 小せェのが成長しやがって。行くぞ!!」
船長達の声と共に両海賊団がぶつかった。銃弾や剣撃が交錯する戦場において、戦う者達は皆楽しそうに口元を緩ませる。今日ばかりは、戦場の華は船長同士の戦いではなく、異様なほど静かに刃を交える親子だった。
お互いに無言でただ刀を振るい、技を繰り出す2人に巻き込まれないように全員が場所を開けた。流れるような2人の動きは、戦っているというより流麗なダンスを踊っているようにも見える。戦場とは思えないその様子を、クルー達ほぼ全員が喜びや嬉しさのようなものを抱いて横目で見ていた。
一方「ほぼ全員」に含まれない者達はというと……
「シャンクス、そっちは崖だ!」
「おっと、危ねェ!」
「ちぇー、2対1は狡いぞ。元・お兄ちゃん達」
「今でもお兄ちゃんだっつーの!!」
「そもそもお前だって2人だろうが!」
「バレてんぞ、レオ」
戦場の中心となっている砂浜から大きく離れた森の中では、3つの影が駆け回っていた。
地形を利用しながら森の中でも構わず長刀を振り回すエルトンと、それをフォローするレオーラ。最初は防戦一方だったシャンクスだったが、次第に木を利用して射線を遮りつつ、エルトンの動きに合わせるように剣を振るようになった。バギーは狙撃手を探すと言って走り回っていたが、レオーラは砂浜の方もフォロー出来る位置取りをしているので、無為に時間だけが過ぎた。
「そもそも、フレイアは残りたがってるのかよ!」
剣のぶつかる澄んだ音の合間にシャンクスが問うと、エルトンはあっけらかんと答えた。
「いや、帰りたがってたぞ!」
「あぁ!?」