第8章 Incomplete
ユピレの言葉にフレイアは硬直して彼を見つめた。言っていることが理解出来なかったのではない。ただ、理解を否定した。
「今すぐとは言わない。お前が親元を離れる歳になったらで構わない」
「何それ。おじいちゃんが私を海賊にしたくないだけでしょ!?」
「違う」
「違わな」
「違う。何故ならおれもその時には海軍を辞めているからだ」
「……」
予想外の言葉にフレイアの目が零れ落ちそうなほど見開かれた。ユピレはフレイアを落ち着けるように手を強く握る。
「おれにとっての中立が変わった。だから海軍を辞めて、新しく決めた中立を保つ。それについて来て欲しい」
「……嫌だ」
「フレイア」
眉を顰めるユピレの手を振り払うようにフレイアは手を無茶苦茶に振り回した。
「私は私! おじいちゃんの理想に何でついていかないといけないの。私は海賊になるって決めてるの!」
「言ったはずだ。力があるなら責任を」
「それはおじいちゃんの話でしょう? 私に勝手に当てはめないで」
「……では、問おう。お前にとって中立とは何だ」
その言葉にフレイアは動きを止めた。忙しなく瞳が揺れ動き、言葉を紡ごうとした口はただパクパクと空気を出し入れする。その様子を、ユピレは責めるわけでもなくただ穏やかな様子で見ていた。
数分そうして止まっていた時間は、フレイアの小さな声によって再び動き出す。
「……分からないよ」
「……」
「でも」
フレイアは一度目を閉じて、再び開いた。その一瞬で彼女の瞳が普段のように強い光を取り戻したのを見て、ユピレは眩しそうに目を細める。
「おじいちゃんについて行くのは違う。だって、それは私の選んだ中立じゃないから」
「自分の答えが見つからないから断る、ということか?」
「うん。もし私の答えがおじいちゃんと同じなら、海軍でも海賊でもない何かなら、私はおじいちゃんの手を取る。でもそれは今じゃない。何も分からない今決めることじゃない」
「……そうか」
ユピレはずっと握りしめていたフレイアの手を放した。そしてひとり立ち上がると、海に向かって歩いて行く。
「では、考えろ。おれが頃合いだと感じた時にまた尋ねに来る」
「分かった」
「じゃあ、白ひげによろしくな」