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鏡面【ONE PIECE】

第8章 Incomplete


「……というわけ」
 大きなイルカの背に乗って去っていくユピレを見送ったフレイアは、モビー・ディックに戻り、白ひげに話していたことを報告していた。話の内容が内容だけに皆に言うわけにもいかず、その場にいたのは白ひげただ1人だった。
「中立の役割……か」
「そう。突然そんなこと言われても困るよね」
 頬を膨らませるフレイアを見て、白ひげはあごをなでた。
 この少女は見た目や言動で忘れがちだが、齢はまだ11の子供だ。陸の上であれば、大人の庇護下におかれているであろう人間。
(海で育つと……いや、海賊に育てられたからか)
 命のやり取りは日常であり、力が無ければ生活もままならない海の上。ただ生きることすら厳しい環境に、保護者付きとはいえ生まれた時から身を置いてきたフレイアは、無自覚に大人に大人扱いをさせてしまう子供だった。
 だからこそ、ユピレも大人でさえ答えに窮するような問いをしてしまったのだろう。そう白ひげは結論付けて息をひとつ吐いた。
「お前は……嫌にならねェのか」
「え?」
「役割だのってもんを押しつけられる人間に生まれたことだ」
 白ひげの言葉に一瞬キョトンとした表情をしたフレイアは、しかし迷うことなくニヤリと笑ってみせた。
「私は私だよ。海の民であることは私ーーブローゾン・マーレ・フレイアの一面でしかない。だから、その程度で私を縛れるわけないでしょ? だって私は海の民であると同時に海賊なんだから」
 フレイアの言葉に、虚をつかれたような顔をした白ひげは大きな声を出して笑った。船を揺らすほどの笑い声に甲板から騒ぐ声が聞こえてきたが、白ひげ本人は気にすることなく目尻に滲んだ涙を拭う。
「グララ……言うじゃねェか」
 ニヤリと笑みを浮かべて大きなその手をフレイアの頭にそっと置く。
「それでいい。お前らしい、フレイアの強さだ」
「そんな大袈裟な」
「バカ言うんじゃねェよ。そんな考え方が出来なくて潰れる奴等だっている。フレイア、お前は正しく、自由で我が儘な海賊だよ」
「最高の褒め言葉ね」
 フレイアの言葉に白ひげはまた笑った。
 しかし、フレイアの頭の片隅では妙な引っ掛かりが消えることがなかった。
(あの墓守のこと、結局話してもらえなかった。それはきっと私がまだそれを話せる程、物事を理解していないからだ)
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