第8章 Incomplete
フレイアは仕掛けなかった。
先程までの無気力に過ぎていく戦いが続くなら、自分が決めて終わればいいと思っていた。でも、アルヴァが本気で構え自分を殺しにくるなら話は別だと心の中で歓喜した。
そんな彼女に向かってアルヴァは自身のトップスピードを乗せた剣先を振るう。時間稼ぎがバレたことにくらいは気付いていたから、せめてもの意地だった。
「ま、これくらいか」
アルヴァの視界からフレイアが消える。消えた、と認識した瞬間、もう勝負はついていた。全身に仕込んでいた金属も紙切れと変わらないように斬られ、アルヴァが痛みを感じたのはほぼ一瞬だった。大きな音をたてて瓦解していく部屋は、倒れたアルヴァのみならずフレイアも巻き込んで白ひげ海賊団のいる地上へと降り注ぐのだった。
一方その頃、建物の中ではマルコとエルトンがリーダー格の男を探して走り回っていた。
「あーもー、さっきまで勢いでぶっ飛ばしてた奴らに特徴聞いとけば良かった!」
「珍しく同感だよい」
2人の前に現れるのは、入り口にいた連中と同じように虚な目をしたロボットのような者たちばかりでとても話が出来るようには見てない。足止めだと丸わかりの奴等ばかりを相手にしていることに焦りを感じながら、2人は必死に見聞色を働かせて気配を探った。
「三つ目の部屋のやつ、他のやつに比べて動きがいい」
「ああ、だけど部屋の中から動く様子がないのはおかしいだろ」
「……」
「ま、行ってみるか。それ以外は……」
「特に変わった動きの奴がいない」
話しながらも走っていた2人は目的の部屋の扉を勢いよく蹴破る。しかしその中の光景に同時に舌打ちを漏らした。部屋の中では他の者たちと同じ様子の1人の男が、ひたすら部屋の中を歩き回っていたのだ。
「はは、完璧乗せられた」
「笑ってる場合じゃないよい」
「でもこれで絞れたろ。あとは3人。全員入り口を目指してる。なんの能力か知らないけど、自分の駒に紛れようなんて姑息な奴」
とりあえず、とばかりに部屋の中にいた男を鞘で殴りつけ、エルトンは廊下に向かって走り出そうとする。
「捕まれエルトン」
「お、サンキュー」
エルトンが不死鳥化したマルコに捕まると、一気に廊下と階段を飛んでいく。2人が出入り口への曲がり角を曲がった瞬間だった。大きな音をたてて、屋敷の一部が崩落した。