第8章 Incomplete
「本当に化け物かアレ」
「さァな」
瓦礫から這い出てきたボロボロの男達は相変わらずどこを見ているか分からない目で入り口の方へゆっくり歩いていく。まるでプログラムされたような動きにビスタは眉を潜めるだけで、手は出さなかった。
「どうする、オヤジ。あいつら以外はほぼ掃討したが」
「……ほっとけ。あとは3人がカタをつける」
「3人、か」
「どうした、弟子が心配か?」
ニヤリと笑う白ひげにビスタはゆっくり首を横に振った。
「大丈夫だろう。あの子は強い」
「いつかお前も超えるか?」
「……あの子が、あの子の言う通り剣聖を超えたなら、その時は」
「グラララ……楽しみじゃねェか」
その頃、噂されているとも知らない少女は小さくクシャミをしていた。その隙を逃すまいと斬り込んでくるアルヴァの剣を軽くいなし、フレイアはアルヴァの首に剣先を向ける。しかしそれは寸前のところで鉄を仕込んだ腕で防がれた。
「……」
(向こうのほうが圧倒的に強いわけじゃないけど決めきれないのよね……)
逃げの姿勢がアリアリと見える敵の戦い方にまゆをひそめながら、フレイアは剣をグッと両手で握った。
「遊ぶのはこれくらいにしましょう」
「……遊んでたつもりはないが」
「嘘つきなさいよ」
苦々しい口調で言うフレイアにアルヴァは小さく首を傾げた。
「お前の方が強い。あの時は毒で弱らせていたから俺が強く見えた。それだけだろ」
「それだけ、ね。どんな理由があっても貴方に一度背を向けた事実は私の中で変わらないの」
「……面倒なタイプだ」
「お互い様よ」
アルヴァは軽く息を吐くと、先ほどより腰を落として構えた。
「俺はアイツを逃さなきゃならない。そういう契約だ」
「契約?」
「あの男の悪魔の実の能力で強制的にコントロールされるよりましだと思ってる」
「あのー話が」
「つまり……」
アルヴァが強い殺気をフレイアにぶつける。それに応えるようにニヤリと笑いながら目の前の男を彼女は睨みつけた。
「一撃で決めたいのね」
「時間が迫ってるんでな」
「あら残念。じゃあ……」
アルヴァとは対照的にあくまで楽しげな笑みを絶やさず剣を構えたフレイア。
「せいぜいその一発で1時間分くらいは楽しませてね」