第8章 Incomplete
いつも調整を頼んでいる職人が近寄ってくるのにレオーラが驚いていると、職人は黙って銃を三丁渡した。
「白ひげのオヤジさんに頼まれて超特急で調整しました! 長距離用は愛用のやつより射程が10mほど短いですが、他はちゃんと仕上がってます」
「……ありがとうございました」
笑顔で受け取ったレオーラの両肩を職人が掴んだ。
「いつものやつ取り返してきて下さいね! 妻と待ってますから!!」
「はい」
力強く頷いたレオーラの様子が普段通りに戻ったのを確認して、エルトン、マルコ、白ひげの3人は顔を見合わせた。そしてエルトンが率先してレオーラの背中を叩く。
「ほら行くぞ! 皆んなに獲物全部取られちまう」
「はは、あの黒幕は僕に残しもらわないと困るな」
「早い者勝ちだよい」
「グラララ、さっさと行ってこい!!」
意気揚々と戦闘に走っていく3人の背中を見送り、白ひげは1人屋敷の上の方を見上げる。最初に破壊した以外、特に動きがないように見える部屋の中で敵と切り結んでいる小さな影の気配に唇の端を持ち上げた。
「くそ、やっぱ人数で押されるとキツイな」
外の様子を確認した男は歯噛みしながら階段を降りた。そのまま監視カメラの情報を集めていた部屋に行くと、その場にいた部下の肩を次々叩く。
「さ、時間稼ぎよろしく」
「……」
焦点の合っていない5、6人の男達は武器をそれぞれ持って部屋を出ていく。それをみた男は自分を落ち着かせるように胸に手を当てて深呼吸を繰り返した。
「大丈夫、またゼロから始めよう。この手の商売相手は居なくなったりしないんだから」
そう言って男は自分の痕跡を消すべく動き始めるのだった。
「どいつもこいつも、だらしねぇなぁ!」
「ヒッ、なんだこいつ……!」
「おいエルトン、一人で狩り尽くす気か!?」
水を得た魚のように戦場を駆け抜けるエルトンに全員文句を言いつつも口元には笑みを浮かべていた。そんな彼の無茶をフォローする弾丸も、心なしか普段より数が少ない。全身で絶好調だと告げる男に先程までの陰は微塵もなかった。
「おっ」
そんな彼が戦闘に加わって初めて後ろに下がった。それに皆が視線を集中すると、屋敷の入り口を守るように5人ほどの男達が列を組んで立ち塞がっている。
「なーんか、嫌な感じ」
「嫌な感じってなんだよい」
「え? 勘!」
「勘……ねぇ」