第8章 Incomplete
テーブルの上に置かれたランプ1つで照らされた薄暗い部屋。レオーラがゆっくり瞼を持ち上げた。体の節々に痛みが走り、眉を潜めながら縛られている手足を揺する。
(外れそうにないか)
そう判断すると、直ぐに体の力を抜いて木造の床に体を預けた。自分が寝てからどれだけ時間がたったか分からないが、昼にはモビー・ディックが到着する予定だ。2番隊がそこと合流出来れば勝ち目はある。残してきた面々の顔を思い浮かべながら、レオーラはそっと笑った。
(ま、あの子達なら大丈夫)
「あ、起きたみたいだね」
「……」
突然、目の前の扉が開く。入ってきた男の声に地下のことを思い出してレオーラは眉間にシワを寄せた。
「そんな顔しないでよ。君が抵抗しなければ何もしない」
「これから売り飛ばされる身としては何も信用できないね」
「まあ、それについては自分の特異性を恨んでよ」
ニコニコと笑いながら黒髪の男はレオーラの目の前にしゃがみ込み、そっと手を伸ばした。一瞬身をよじったものの、体力を使うのが馬鹿馬鹿しく思えてされるままにすると、男は彼の目元に触れる。
「”千里眼”とまで称されるこの目が悪魔の実の能力でも何でもないなんて面白いよねェ」
「好きでこんな眼に生まれたわけじゃないけど」
「ハハ、言うね。この眼が無ければ君が相棒くんの隣に立てる人間だとは思わないけど?」
おもむろに出された人物にレオーラが一瞬強い殺気を放った。それに僅かに顔を強張らせた男はレオーラから手を離して立ち上がる。
「図星だったかい? 怖いねェ」
「……」
「ま、いいや。明日まで動かないから今日は大人しくしといてね。ないと思うけど、窓から飛び降りようとかも思わないようにね。ここ、この屋敷で1番高い位置の部屋だからさ」
言いたいことを言って出て行った背中を黙って見送り、扉が閉まったところでレオーラが大きく息を吐いた。
「……エルの奴、怒ってるかな」
「ああ、めっちゃ怒ってる」
予想外の声にレオーラが振り返ると、言葉とは裏腹にホッとした顔のエルトンが笑っていた。