第8章 Incomplete
「……見えた!」
追手をすべて屠ったのち、走り続けていた一同の目の前に見慣れたクジラの船体が現れた。背後への警戒を怠らないよう気をつけながら近づくと、モビーの甲板から青い光がフレイアたちの前に降り立つ。
「皆怪我は?」
「マルコ! もういいの?」
「ああ、大丈夫だよい。それに、あんな状態のエルトンを放置してたら被害が拡大する一方だから、寝てもいられねェ……」
マルコのが苦々しい顔でモビーの甲板を見る。指摘される前から気付いていたものの、気付かないふりをしていた強い覇気が誰のものか分かり、レオーラは力なく笑った。きっと甲板はひどい状態だろうと、予想に難くない。
「お前らも疲れてるだろい。まずはその血塗れの服をどうにかしてこい。港付近には4番隊が張ってるし、お前らの準備が出来たらすぐ指示が出る」
「準備なら」
「そんな疲れたツラで何言ってんだよい」
ピシャリと言われてしまい、フレイアは唇を噛んだ。レオーラが気掛かりで落ち着かないのだと無言の主張をする末っ子に、マルコは軽く頭を掻きながら目線を合わせる。
「万全の状態でアイツを助けるのがおれらの今やるべきことだ」
「分かってる」
「今のお前が万全じゃねェのは自分が1番わかってるだろい」
「分かってる」
「……フレイア、一度負けた相手にまた負けるつもりか?」
「ふざけないで!」
拳を握りしめたフレイアは強い眼差しでマルコに応えた。
「次会ったら叩き切るに決まってるでしょ」
その言葉に笑ったマルコはポンとフレイアの頭を叩き、モビーに再び飛んで行く。その背中を見たフレイアも自分の頬を強く叩いて後を追っていった。
「だから!! おれが乗り込む!!」
「アホンダラ、レオーラが捕まってるのにお前に先頭まかせられるわけねェだろう」
フレイアが医務室で船医からのオーケーを得て戻ると、甲板では鬼気迫る顔のエルトンと白ひげが火花を散らしていた。それを少し離れたところでハラハラと見守るクルー達の中で、溜息混じりに地図と睨めっこしているマルコとビスタの方へフレイアは走っていく。
「あれいいの?」
「放っとけ」
「それよりフレイア、詳しい情報を」
「了解」
フレイアがマルコの手元にある地図に視線を落とした瞬間、突然刺すような錯覚に襲われ、反射的に愛刀に手を伸ばした。