第8章 Incomplete
「はは、君が目的だと言ったでしょう」
「だが、流石に主力が来たら」
「その前に出ればいい話です。連れて行くのは1人でいいんですから。アルヴァ……頼みましたよ」
「心得た」
レオーラが無言で撃った弾を切り落とすと、剣を構えた男が一瞬で距離を詰めようと踏み出す。
(早いけど、反応しきれないほどじゃない)
これが普段通りなら、と付け加えなければならないことを考えながら、レオーラはゆっくり迫ってくるように見える男の攻撃を避けるべく体を傾けた。
「遅い」
「はは、知ってる」
見えている世界に体がついていくとは限らない。
(だから近距離戦は嫌いなんだよ)
腕を掠り、血が辺りに飛び散った。気にすることなく、お返しだとばかりにレオーラが男の足に銃弾を撃ち込むも、金属質な音がしただけだった。
「オイオイ」
「悪いな」
まともに入った筈の攻撃が弾かれ、返し手で迫ってきた刃を避ける気力もあまりない。舌打ちしながら体をひねったものの、ブレる視界で測った目算などあてになるはずもなく、痛いのか熱いのか冷たいのか分からない、鋭い感覚がレオーラの腹部に走った。
新鮮な空気をすったことで、多少まともになった視界でフレイアは戦闘音が響いている方へ走った。
「はあ、はあ、くっそ、本当に情けない」
何も役に立てなかった、という自己嫌悪に潰されそうになりながら、別れ際に言われた言葉に支えられて走る。苛立ちまぎれに、目一杯力を込めた【湖月】を戦場に叩き込むと、一瞬の静寂が訪れる。
「全員退避!」
「な」
「戻るぞ」
「とりあえずここ制圧かぁ」
「いいから早く!」
(さっきの奴が来たら太刀打ち出来るかどうか)
そこそこ長く続いている戦闘で体力の削れている様子の2番隊の面々を見ながら、フレイアは歯噛みする。レオーラが時間稼ぎをしてもそう長くもたないことは想像に難くない。
「おい、全員適度に相手しながら戻るぞ!」
「ティーチ……」
「何かあったんだろ?」
手近な敵を沈めながら話すティーチにフレイアは黙って頷いた。それを見て、ただ事ではないと悟った面々は言われた通り撤退戦の構えをとった。
「おい隊長は」
「捕まった」