第8章 Incomplete
「え?」
僅かに振り返った途端、グラリとフレイアの視界が揺れる。
「っ〜〜」
その瞬間を逃さず切りかかってきたボス格の1人の剣を受け止めたフレイアの背中をレオーラが支えた。霞む視界の中で敵を捉えると、奥からクツクツと笑い声が聞こえた。
「はは、効くのが遅いんで驚いたよ。目が良いと鼻が悪くなるのかい?」
「……狙いは僕か」
「そういうことだ。流石の”千里眼”でも未来は見えないのか?」
「僕が見えるのは人よりちょっと遠くと細かいものであって、生憎目に見えないものまでは見えないよ」
(なんとかしてフレイアだけでも逃さなきゃ……)
何かしらのガスの蔓延している部屋の中で、立ち止まっているだけで命取りだ。しかし、そもそも体のサイズが違う2人では体に回るスピードが違う。腕にかかる体重が次第に重くなっていくのを感じながら、レオーラはフレイアの頭を見下ろした。
「フレイア、生きてるよね?」
「……舐めないで、体力温存してるだけ」
絞り出すような声でそう言ったフレイアを見て、レオーラは霞がかかっていく思考を無理やり動かす。
「さて、そろそろ諦めてもらおうかな。そこの女の子はどうでもいいけど、腕は立つみたいだから貰っておいて損はなさそうだ」
「生憎、借り物を傷物にして返すほど非常識じゃないんでね」
「レオ」
「頼んだよ」
フレイアを扉のある方に突き飛ばすと、レオーラは両手にハンドガンを構えた。両目を開いて前方を睨む彼の暗い殺気に思わず動こうとした敵の足が止まる。
「行って!」
「……戻ってくる」
フラつきながらも走って地上への階段を登り始めたフレイアを背中で見送り、レオーラが銃口をあげた。
「さて、兄貴の意地に付き合ってもらおうか」
(失敗は許されなかった……ここで少しでも足止め出来たら、完敗はしない。信じてるよ、2番隊)