第8章 Incomplete
男が指し示していた扉を開けると、たしかにそこには地下へと続く階段があった。冷気の漂う薄暗い階段に2人は思わず一瞬立ち止まる。明らかに異様な気配だった。
「……気配は、そんなに多くないね」
「うん」
見聞色で探りながら一歩目を踏み出すと、慎重に足を運んでいく。先を歩くフレイアが神経を張り詰めながら歩く。それに対して、どこか落ち着いた様子のレオーラは軽快に後をついていく。
「フレイア」
「なに?」
「下についた瞬間、思いっきり【湖月】を前に撃ってくれない?」
「いいけど、皆んなに当たらない?」
「大丈夫。多分下にいるのは皆んなじゃない」
「!?」
眉をひそめて立ち止まったフレイアに対して冷めた目でレオーラは言葉を続ける。
「皆んなの気配なら僕は間違わない」
「……信じるわ。嵌めたつもりなのか何なのかは知らないけど、面倒ね」
柄に手をかけながら先程より逆に力の抜けた様子で再び足を進め始める。その様子を見てレオーラは薄っすら笑みを浮かべた。
(気負っちゃって。ま、そうさせたのは僕のせいか)
心の中で自己反省しながら、レオーラも近くなった地下の気配に銃を構えた。
「じゃあ3、2、1で」
「オッケー」
最下層につき、目の前に現れた扉。ドアノブに手をかけつつ、フレイアは目線だけ後ろを向く。それに軽く頷くと、レオーラは扉を開けた時の隙をカバーするために銃口を扉の方へ向けた。
「3、2」
いち、というや否や扉を開けたフレイアはその勢いを剣先に存分に伝えて一閃を放つ。
【湖月】
鋭い衝撃波が波状に広がり、数人の男達が倒れたところで空気を切る低く重い音が聞こえ、フレイアの攻撃が消された。
「強いのが2人」
「ハハ、これは誘い込まれたかな」
「ええ、正解です」
フレイアの斬撃を相殺した男の後ろから、落ち着いた低い声が響いてくる。それを無視して周りにいた有象無象へ各々は武器を向けた。
(奥の2人は動く気配が一切ない……どういうつもりだ)
雑魚など歯牙にかけない2人は手際よく沈めていく。しかし、全く動かないボス格の2人に不気味さは感じているようで、レオーラもフレイアも視線を交える。最後の1人の眉間に銃弾を入れ、フッと一息ついた瞬間、レオーラは突然目を見開いてフレイアの名前を叫んだ。