第2章 superfluous power
「なあフレイア、あの二人を見なかったか?」
「いえ、見てないですけど」
2ヶ月ぶりの上陸を目前に控えて、船内は慌ただしく人が行き来している。フレイアもミランダに頼まれて食糧調達の一覧を食糧庫で確認していた。するとそこに、険しい顔のレイリーが入ってきて先の質問を投げかけてくるのだから、二人が誰を指すのかも、何故捜索されているのかも、経験上理解してしまった。溜息交じりに零した返事は嘘だったが。
つい五分ほど前にこそこそと、二人そろって船の最下層の方に向かったのを思い出して肩をすくめる。自分が言わなくてもレイリーのことだから直ぐに見つけてしまうだろうという信頼と、ただ関わるのが面倒だという本音。
「そういえば、シャンもバギーもちゃんと約束覚えてるのかな」
ふと手を止めて、下の方をじっと見つめる。透視能力がないフレイアでは木の板を睨むことしか出来ない。僅かに嫌な予感を感じながら、再び仕事にとりかかった。
「だから、な? 悪かったって」
「……」
「おーい、フレイア」
夕方、食材の入った籠を持って早歩きで厨房に向かうフレイアの後ろを手を合わせて追いかけるシャンクス。何事かと近くを通った大人たちが一瞬足を止めるが、フレイア本人は涼しい顔でシャンクスの謝罪を無視し続けている。
「おいシャンクス、こっち終わったぞ」
「おー……」
「ダメか?」
「存在を消された。返事もしてくれねェ」
近寄ってきたバギーに肩を竦めながら返事をすると、溜息が返ってくる。
「こうなれば奥の手を」
「奥の手?」
「まぁ任せろ。振り向かせてやる」
自信満々な様子でバギーが備品チェックをするフレイアに近付いていく。2、3歩後ろでシャンクスも固唾を飲んで見守っていると、バギーがおもむろに自分の体を切ってみせた。
「人体切断マジ」
「は?」
「ごめんなさい」
絶対零度の視線を前にして直角のお辞儀をみせると、一瞬でバギーが戻ってきた。
「ありゃダメだろ」
「振り向きはしただろ!」
「キレてる時のファイさんにそっくりな顔でな」
流石親子だ、と変なところで感心したものの、問題は一向に解決していない。黙々と作業を続ける背中を見て、2人は一斉に溜息を吐いた。