第8章 Incomplete
街も森も寝静まった夜更け、2番隊は静かに行動を始めていた。突入部隊としてレオーラ、フレイア、チィーチ。突入サポート及び撹乱としての部隊が暗い森の中を素早く移動していく。普段は船の上なため、皆山は走り慣れていないながら、一定のスピードで移動を続けていた。
「レオ」
「なに?」
「私が暴れるからサポートよろしく」
モビー・ディックを離れる前、エルトンに言われた言葉を思い出しながらフレイアはそう言った。それにレオーラはフッと笑みを零す。
「任せて」
木々の隙間から、目的の館の姿を確認すると、レオーラは手を上げて全員にストップをかける。
「それでは、ここから僕たち突入組は別行動とする。撹乱役の班は……」
一度言葉を切ったレオーラは静かに目を開いて全員を見渡した。
「絶対全員生き延びろ。いいね?」
「はい!!!」
声を揃えて返事をした目の前の隊員に小さく頷くと、今度はフレイアとティーチに目配せをして走り出した。
「ねぇ、皆んながいる場所のアテはあるの?」
「さぁね」
「……」
「ゼハハ、そんな顔するなよフレイア。誰か取っ捕まえて聞けばいい話じゃねェか!」
「まぁそうだけど」
らしくない、とフレイアは先頭を走るレオーラを見て眉をひそめた。彼の持ち味は視野の広さと思慮深さによる的確な判断だ。突っ走りがちなエルトンの相棒らしい、その味が普段に比べて全く生かされていないように感じる。
(私がもう少し前に出ないといけないか……)
ティーチをちらりと見ながら、フレイアは独りごちた。彼も前線で暴れるタイプではあるが、エルトンと違って計算高い暴れ方だ。レオーラの世話になるような男ではない。
「よし、この辺で待機しようか」
「そうね」
「ティーチ、先頭行ってくれる? 僕は援護タイプだからね」
「ああ、わかった」
「フレイアは僕の後ろね」
「え!? なんで」
「僕の目がいくら特別でも真後ろは見えなくてね」
「……了解」
出鼻を挫かれて不満そうな顔をするフレイアにレオーラは首をかしげる。しかし、理由を聞く前に大きな爆発音が森に響き渡った。
「始まったみたいだな」
「うん、予定通り音がある程度、館から引いてから行くよ」
レオーラの言葉に黙って頷く。それから10分ほど経った頃、3人は館に向かって足を踏み出した。